焚火を挟んだ向かい側に座るレヴィの意見を聞き、ライは再度ロキ達がいる隣の空間に目を向ける。何やらポツポツと小さな話し声が聞こえるが、内容までは分からない。

ライは恋愛というものが、よく分からない。
今までそういう温かい感情を抱いた事が無いせいか、恋に溺れる人を見ると不思議で仕方ないのだ。家族に抱く愛情とは違うのか?友情とは違うのか?生き物を愛でる情とは違うのか?
どう、違うのか?

そんな感情を抱いてしまうと、人はどうなってしまうのか。
そもそも、どうやって抱くのか。

……分からない、全く分からない、とライは独り首を傾げる。助けを求める様に何気なく視線を彷徨わせれば、背後でこちらを凝視していたらしいサナと視線が重なった。しばしよく分からない沈黙を続けた後、二人して同時に首を傾げた。

「…どうしてリディアは…ロキが好きなんでしょうか?」

「…さあな。俺もあの男に恋する意味がまるで分からないが………リディアのあれは、初めて会った時から、らしい」

「………ああ…危機一髪の所で助けてくれたっていう話ですか」


…昔オルディオから聞いた話で、今から何年前になるのか定かではないが、リディアとロキの初対面は実に慌ただしいものだったらしい。
砂漠でオルディオとリディアが砂喰いの群れに囲まれ、襲われそうになっていた時…見知らぬ旅人の男が突然現れ、あっという間に砂喰いを蹴散らしてしまったらしい。その命の恩人が、黒槍…ロキだった。

「…オルディオもリディアも、最初はロキを敵と疑ったが……魔獣を蹴散らすだけ蹴散らしておいて、その場で急にぶっ倒れたらしいからな………二人が命の恩人を背負って帰ってきたのを見た時は、呆れて何も言えなかったな…」

「………その話、赤槍から聞きました………脱水症状だったとか」

その時居合わせていなかったため詳しくは知らないが、当時のライが属していた赤槍の長であるドールが嘲笑を浮かべて話してくれたのを覚えている。
旅人のくせに旅の基本がまるでなっていない馬鹿な恩人だったわ、とドールは初対面のロキを評価していた。