前を横切った細い影は、それまで黙々と手元で石を転がしていたリディアだった。奥へ歩いていくロキの後ろに、そっと彼女が続いていく。小走りで追いかける後ろ姿を見送った後、ライは焚火の明かりを眺めつつも、視界から遠ざかって行く二人の会話を何気なく聞いていた。
「槍、磨くの?………見ても、いい?」
「良いけど、私語は禁止だからな。武器の手入れの時は静かにやりたい。……武器の手入れを見るのが好きとか、相変わらずリディアは変わった趣味してんなー」
「………好きだから…仕方、無いじゃない…」
…視界から外れ、余韻を残して消えていった二人から意識を逸らすと、ライは手慣れた様子で黙々とダガーの手入れに取り掛かった。
揺らめく炎の赤に尖った刃先を照らし、曇りが無いかを丹念に確認しつつ………何の前触れも無く、ライはポツリと口を開いた。
「………白槍…いえ、レヴィ…」
「…何だ」
「…リディアがロキの事が好きだって事………ロキは知っているんですか?」
「…お前にはそう見えるのか?」
「………見える様な…見えない様な…」
互いに目を合わせぬまま、若干声を潜めてひそひそと言葉を交わす二人。
オルディオ以外の人間に対して人見知りが激しく、あまり他人に関心を持たないリディアだが……どうやら…というか恐らく確実に、彼女は黒槍ことロキに好意を抱いているようだった。好意は好意でも、友好のそれとは違う…恋慕の意味でのものだ。
リディアはロキに対する自分の感情が周りにばれていないと思っている様だが、如何せん…ロキへの態度を見ていれば一目瞭然だ。綺麗な顔をゆがめた恐いしかめっ面の彼女が、ロキを前にすると一瞬でそれが和らぐのだ。
気付かない方がおかしいと思える程に分かりやす過ぎるのだけれど…。
問題は、その恋心を抱かれているロキの方だ。
「……大体ロキは誰に対してもあんな感じですから…正直、よく分からないです。………気付いてないのかな…」
「…さあな。気付いていないのか…………もしかすると、気付いていない振りをしているのかもしれないな…鈍感そうに見えてあいつは案外感が鋭い。厄介事を笑って回避しようとする八方美人の類いさ。………とりあえず、リディアの片思いであるのは確かで……………両想いではない…」