「違うって言ってんだろっ!!
オレは医者にも……っ!!」
そうだ…!!
医者にも………
『前のように泳ぐ事は出来ないかもしれない』
って………。
「お医者さんに言われたから何?
諦めたのは…
海斗自身じゃないの?」
今の感情を言葉にする事なんて…出来ない。
ただ…憤りと同じくらい心が騒ぐ。
「風邪ひく。行くぞ」
千雪の細い腕をとって校舎に向かって歩き出した。
「…ったく。好き勝手言ってくれるよな、本当」
「謝らないもん」
「あっそ」
オレ、勝負を挑む相手を間違えた気がするのは気のせいか?
「雨、強くなってきたな」
校舎の屋根の下に入って、黒い空を見上げた。
どしゃ降りとは言わないものの、傘を持ってないオレらにはびしょ濡れになる事が必至な降り。
ま、もう濡れてんだけどな。。
オレの横に立っていた千雪が
「私ね……」
そうゆっくり話始めたのは
『どうやって帰ろう。』
なんて、
そんな事を思ってた時だった。
――…なぁ、千雪?
オレは
『受け止める』
そう言った言葉は ウソなんかじゃないんだ。
「――…ごめん」
それでも、
この言葉をオレは
どう受け止めればいい?
「千雪…ごめんね。」
今でも思い出す。中学一年生の冬の日に、お母さんが出て行った。
「千雪、オレはまた来るから。
体、ムリすんなよ?」
お母さんと一緒にお兄ちゃんが出て行った。
けど、お兄ちゃんはずっと帰ってこなかった。
中学二年生の冬、一年ぶりにお母さんから連絡があったのは
警察からの電話だったからビックリした。
飲酒運転だって。
ずっと優しくて真面目だったお兄ちゃんがそんな事を起こすなんて…。
「お前はなにしてんだ!」
「私だって、働いてて忙しいのよ!」
「母親としての仕事はしてないだろ」
「あなただって、仕事仕事って父親として幼い2人の面倒なんて見なかったじゃない!
それにお兄ちゃんは、もう成人してるのよ!?そんな細かくなんて面倒みないわよ!」
「オレは千雪の病気をだな…!」
「あなたはいつも『千雪千雪』って!お兄ちゃんのことなんて考えなかったじゃない!!」
病院の待合室でお父さんとお母さんのケンカ。
まだお母さんが家にいた時も、同じケンカをリビングでしていた声が二階にある私の部屋にいつも聞こえていた。
私のせいだ…。
私がこんな風に生まれてきたから…。
ごめんなさい…。。
そう思って、何度も頭から布団をかぶって謝った。
「私…トイレ行ってくるね」
逃げるように待合室のベンチから立ち上がる。
トイレに行く途中、救急病棟のナースステーションの横を通ったから
私も、こんな風に働いてみたかった…なんて、叶いもしないバカな事を考えた自分自身に少し苦笑して
手当てしてもらってるお兄ちゃんの様子を見に行こうと少し足を止めた。
「あ…あの」
その時……―――
私の後ろからバタバタとスリッパからいくつも鳴らして人が近づいてくる音が聞こえて、振り向いた。
振り向いた先にいたその人たちは息を切らして、すぐ私の横に立って
「連絡をいただいた朝日奈です」
「息子は大丈夫なんですか?」
「……っ」
ナースステーションの中にいる看護士さんたちに大きな声で話しかけていた。
お父さんとお母さんと
大学生くらい?な男の人三人。
すぐにお兄ちゃんの事故の被害者の家族の人だってわかった。
やっぱり、居心地が悪くって立ち去ろうとしたんだ。
けど………
「朝日奈海斗さんのご家族の方ですね」
看護士さんが言った名前に…私は聞き覚えがあったから。。
うぅん…、聞き覚え、っていうより
私が……心が……
恋、している人。
「…ぁのっ」
同姓同名なんて…
そんなオチ、きっとないけど
不謹慎でも、そんなオチが本当であるように…。
隣にいた私にお父さんらしい人がチラリと私をみたけど
「こちらです」
「あっ、はい!!」
私が声をかけられないうちに、看護士さんが案内した方へすぐに行ってしまった。
「……」
こんな事、偶然?
だとしても…
ありえない。。
だって…
『朝日奈海斗』は…――
――…去年の夏
中学1年生、
あと二週間で夏休みになるけど、私は久しぶりに学校へ行った。
少しでも、行きたかった。
で、校門をぬけたら意外すぎるほど静かで
思わずキョロキョロと周りを見回した。
そしたら、人だかりを発見!!
「プール…??」
私は生まれてから一度もプールに入ったことがない。
いつも見学。
仕方ないって分かってるよ…??
でも、なんで人だかり??
吸い寄せられるように私の足も向かった。
「…あ、」
プールが見える緑色のフェンスにしがみついている友達2人を発見。
「なにしてるの?」
私の声に振り向いたのは、友達の茜(アカネ)と佐緒里(サオリ)。
「千雪っ!!今日は学校来れたの!?」
「うん。お父さんが今日から行っていいって」
「マジー、良かった!
待ってたよー!!」
「ありがとう!
…で、みんな何してるの???」
茜も佐緒里も、私の病気を知ってるから心配してくれる。
けど、あからさまにソッとしようとする先生と違って、
どれだけ久しぶりに学校へ行っても何も変わらない態度で何度でも話しかけてくれる2人は大切な友達。
今日から学校に行けるって、メールすれば良かった。
なに、この惨事??
「千雪、あんたも見なよ!」
「超かっこいいんだからっ!」
大興奮の大声で同時に話をするからなんの事だかサッパリ分かんないんですけど…。。
「もぉ~、なんなのよ」
それでもこんな些細な日常が嬉しくて、笑って私もフェンスにしがみついた。
「あの人っ!見える!?」
「夏休みの大会前に水泳部が他校との合同で朝練してるんだよっ」
「へぇー。。」
バシャバシャと水しぶきが上がってるせいで、誰が誰だか…茜が指さした人がどの人なのか…分かんない。。
「1年生にしてエースの座って感じなのっ」
はい?みんなのお目当ては私たちと同級生なの?
茜のタイプは断然年上って言ってなかったっけ?
そんなきっかけで少し興味がわいて、水しぶきの中に目を凝らした。