「…メモ??」
オレの手の中には
キレイなスカイブルー色の小さなメモ。
「私のメールアドレスと、番号書いてあるから!!
後でちゃんと連絡してね!!」
「はっ!?」
なんでいきなり焦ってんだって聞こうとしたのに
「絶対絶対、連絡してね!!絶対だよ!!
連絡、待ってるからね!!」
指差しながらオレに何度も何度もそう言いながら
校門の方へ後ずさる。
「おいっ!!」
待てって!!
千雪の行動は何でもいきなりだから意味が分からなくて、引き止めようとしたのに
「海斗!!」
オレの名前を笑って呼ぶから
ほら、目がそらせなくて
何も言えなくなる。
「好きよ」
千雪の小さな声が、
ちゃんとオレの耳には
確かにそう届いた。
「じゃ、連絡待ってるから!!
約束だからね~!!」
そう言いながら大きく手を振って
クルッと身をひるがえし、小走りに立ち去りだした小さな背中に向けて
「千雪!!!」
キミの名前を
初めて叫んだんだ。
なんなんだよ…ホント。
いきなり、現れて
いきなり、昼寝の邪魔して
いきなり、突き飛ばして
いきなり、付き合えって
いきなり、好きって
いきなり、走り去って
いきなり
人の心に土足で入り込んできて…。
「なんでも、いきなり過ぎんだよ…」
手のひらの中にある千雪が残したメモに視線を落として
ポツリとつぶやいた。
「なにが『いきなり』なん??」
そぅ!!まさにいきなり耳の横で声!!
「びっくりしたぁぁ!!」
アニメのように背がゾクッと伸びた!!
「海斗、また昼寝してんのかと思ってたのに
起きてるなんて珍しいね~」
背後から声をかけてきたのは同じ学年の
五十嵐大悟(イガラシ ダイゴ)と
瀬戸莉子(セト リコ)。
大悟とは小学校からの腐れ縁ってやつ。
莉子とは…1年前の入学式の日から付き合った。
まぁ…色々あってさ、
結局半年で別れたんだけど。
でも、今では大悟と三人で騒げるイイ関係。
正直、莉子には色々感謝してる。
「なっ、なんでもねーよ!!」
千雪にもらったメモを、急いでジャージのポケットに押し込んだ。
別に、見られてマズい事があるわけじゃないけど、
千雪の事を色々聞かれたって
オレがだって分かんねーんだから、答えようがない。
だから、バレたってめんどくさいだけだろ??
「海斗ぉ~、
『朝日奈はまたサボリかー!?』って、カニ先がまた怒ってたよ??」
莉子とは1年に引き続き、2年になっても同じクラスになった。
で、莉子の言う『カニ先』ってのはクラス担任で数学担当の口うるさいヤツ。
可児(カニ)先生。怒らせるとホントのカニみたいに顔を真っ赤にする通称『カニ先』。
「お前、相変わらずカニ先に目つけられてんな。ご愁傷サマー」
「大悟、お前もだろ!!
うっせーよ」
「俺はお前と一緒だった1年の時だけだもん。
今は仲良く遥香(ハルカ)と授業受けてるっての」
「あっそ!!じゃあさっさと愛しの遥香チャンとこ戻れ!!」
遥香は、大悟の彼女。
1年の時の学祭で親密になったんだと。
「ほらっ、海斗も一緒に教室戻るよ!」
最近、莉子が第2の母親に感じる。
口うるさい母親ってやつ。
本人に言ったら、絶対殴られそうだな…。
「分かったよ!!昼寝も飽きたし、腹も減ったし戻るよ」
カバンの中に登校途中に買ってきたメロンパンがある。それ食お。
最近、メロンパンにハマり中。
「売店の自販機で飲み物買ってくから、先戻っててて」
メロンパンにはやっぱ、水分も必要…って、年寄りか!?オレ。
「もぉすぐ、授業始まるから早くしてね!!」
「そのまま帰るなよ~」
「分かったっての!!急ぐよ!!!」
大悟と莉子と騒ぐこのペース。うん、いつも通り。
さっきまでの
千雪がいた空気と
今、こうして騒いでいる空気が
全く違うものに感じる。
別にどっちがどぅってワケでもってないし、
イヤな気分なワケでもない。
ただ、
フッとそう感じただけ。
「あ……、
カフェオレ売り切れかよ」
『ミルクたっぷり』って牛が牛乳瓶持ってるイラストが書いてある
何気に校内1番人気のカフェオレ。
当然オレもこれ目的で来たのに。
「ちゃんと補充しとけよな~」
仕方ない…
果汁100オレンジジュースにしよ。
小銭が無造作に入れてあるジャージのポケットに手をつっこむ。
「……」
ポケットの中には
小銭に紛れた
スカイブルーのメモ。
『連絡待ってるから!!』
そう言った千雪の笑顔が脳裏に蘇える。