………なに、言ってんだよ…。
悪い冗談…だろ…!?
「………バイクの…??」
涙をポロポロと落として黙ったまま頷いた千雪は、オレを見つめていたけど
ごめん…今はオレが
見れない…。
「…っ、けど!!
名前が違うよ…な??」
確か…
オレをひいたヤツは
入院中にオレの見舞いに来て…、
会いたくなくて追い返したけど…
『タカハシ』って…名乗った。
千雪は…違う、よな??
『私は日向千雪。』
そう、言ったよな??
恨んだ。
『タカハシ』そいつのせいでオレは…って。
見舞いに来た時は、殴り殺してやりたくて
でも、骨折した手や足を拘束されていたオレには出来なくて
どこにもぶつけられなかった怒りを
物や、言葉や、態度にするしかなかった。
オレがリハビリしてる時も、『タカハシ』はのうのうと暮らしているのかと思ったら どうしようもないくらいの怒りを覚えた。
やっとの思いで退院した時、『タカハシ』を殴りつけに行ってやろうかとも思った。
けど……
ムキになるガキみたいにはなれなかった。
許してやれるほど、大人な寛大な心だったわけじゃない。
殴りつけに行って、罵声を浴びせるのくらい簡単だった。
けど…殴りつけたって
足も、時間も、地位も、なにもかもが元には戻らないことが
ガキのオレにも、やけに冷静にわかっていたから。
だけど…1日だって許した日はない。
飲酒運転した『タカハシ』のようなバカな大人にはならないって
恨んでバカにして生きてきた。
そいつが千雪の兄貴??
冗談…キツいだろ。。
なのに…………
「…高橋。
私の親ね、…離婚、したの。
私はお父さんの苗字。
お兄ちゃんは…お母さんの……」
冗談じゃ、ないみたいだな……。
頭ん中、ゴチャゴチャすぎて、うまく整理も出来ない。
「…オレを知っていたのは、オレがお前の兄貴が起こした事故の被害者だからか…」
そりゃ…知ってるわな。。
なんだ…それ。
「違うっ!!…確かに事故の相手が海斗だって聞いて私もっ…!!」
「なにが違うんだよ!!」
千雪の言葉を最後まで聞く気にはなれない。
「お前のバカな兄貴のせいでオレは!!」
「海斗…あのねっ!!」
千雪がオレの服の袖を少し触れたから…
「触んなっ!!!」
「……っ!!」
勢いよく振り払った手が千雪の頬に強くあたった。
しまった…!と思って
千雪の顔を見たら、
強く当たった頬をおさえる事もしないで
オレをまっすぐ見つめていたから…
思わずすぐに目をそらした。
なんだよ…
なんでオレの事そんなに見てんだ…。
事故を起こしたのは兄貴で、自分は関係ねーと思ってんのか?
確かに、千雪じゃない。
けど、黙ったままだった事に苛立つ。
「最初に話したら、オレが連絡して来ねえと思って、隠してたんだろ!?」
それくらいしか、隠してた理由はないだろ!
「…ごめんなさい」
ほら、な。
「でもっ…!!」
言い訳なんて、聞きたくない。
こんな千雪にオレは…………。。
バカだな、オレ。
見る目がないってやつか…。
「うぜーよ、お前」
立ち上がって背を向けて歩き出した。
……帰ろう
もう、二度と会うつもりもない。
「私っ、海斗の泳いでる姿が本当に好きだったの!!
だから、言い訳なんてしない!!!
お兄ちゃんの事だって、隠したままじゃいられないのは分かってた!!
だけどっ、私が海斗に会いに行ったのは、お兄ちゃんの事じゃなくて
私がっ………」
もう…いい加減にしてくれ
振り返って千雪の目を見つめた。
「……」
「海斗…聞いて??
お願いだから話を聞いて……??」
すがりつく気か…??
「なぁ…千雪」
「……」
ゆっくり、息をひとつ吐き出した。
「オレの頼みも…聞いてくれるか?」
「…なに?」
「もう二度と…
オレの前に現れるな」
千雪が小さく震えた事も分かった。
けど、
そんな千雪を見ても
もう何も思わない。
「じゃあな」
もう、背の向こう側から千雪の声はしなかった。
オレも振り返らないで
黙ったまま停めてあった自転車にまたがり、公園から出て行った。
春の夜の少し生ぬるい風の中を通りながら帰り道を急いだ。
最悪な1日……
こんな日はさっさと寝て、忘れたい。
『タカハシ』が見舞いに来た日のように
千雪の言った真実も
千雪の存在すらも……。
「……」
とめどない怒りがこみ上げてくるのに……
脳裏から離れないのは
千雪の涙の瞳。
オレの頭、どうかしてる!!
「クソッ!!」
少しでも早く千雪から離れようと、ペダルをこいでる足にグッと力をこめ続けた。
「……ハァッ」
やっぱり体力落ちたな。。
息が切れだした。
ってか、
こんなに家遠かったっけ??
行く時は感じなかった。
早く…もう少しだって……。
「……」
重傷だ……。