ここは千雪の家の前。。
この状況…ヤバくない??
「もし…見られてたら、ヤバいな??」
千雪の家の方を見た。
抱きしめてんのを家族に見られるとか…ナシだろ??
オレ…親父さんに殴られる??
「だねっ」
だねっ、って、オイ。。
まぁ…多分っていうか絶対、抱きよせたのはオレなわけで……
「ごめん」
謝るしかない。。
「けど、ちょっと…残念」
「ん?なにが??」
「なんでもなーぃっ」
「なんだよ?」
「内緒っ」
まだ頬が赤らんだまま手を振った千雪を
今度はしっかりと玄関が閉まるまで見送ってから、オレも家に帰ってきた。
いつもと同じようにカバンを散らかった机に投げてベットに背から倒れこむ。
ギシッというスプリングの軋む音とため息が重なる。
そのまま天井に向かって手を伸ばした。
まだ、覚えてる。
千雪の温もり。
小さな体がこの腕の中にいたって刻みこまれてる。
そのまま額にのっけて目を閉じた。
「…泣くこと、ねーだろ……」
結局、何も聞き出せなかったな…。
自分バカさ加減に…泣きたいのはこっちだ。
刻みこまれているのは
温もりと、笑顔と…
…涙。
一週間後、
涙の理由を知った時、オレはそれでも
それでも…??
あぁ、それでも…
こんなにも
キミの事が愛しいと
思えているだろうか。
明日、この感情の名前くらい…教えろよ??
翌日、木曜日。
千雪からメールが来たのは7時すぎ。
あ、朝の7時じゃない。夜の、19時。
マナーモードの携帯電話が震えた。
「もしもし?」
『海斗っ!?ごめんね!!』
謝ってきた千雪と、
今日、会うと約束したのは昨日。
行きたいとこ連絡するねと言われていたから待っていたけど
一向に連絡がなかった。
だから、昼休みにオレからメールをしたんだ。
『今日どうすんだ?行きたいとこ決まった?』
けど、返信は来なかった。
しつこい男だと思われるのもイヤだから、散々迷ったけど、放課後に電話もかけた。
数秒の呼び出し音の後、留守番電話サービスにつながったから、ため息ひとつついて携帯を閉じた。
千雪は、わざと連絡をしてこないのか?
それとも、もしかして連絡をしてこれないのか?
って、ガラにもなく落ちつかなくて、気になって、窓の外を眺めていたら……
莉子や大悟に
『海斗、今日ずっと眉間にシワよってるよ?なんかあった??』
『悩めるお年頃か?』
『悩みあるの!?うそ!?』
『きっとまたコーヒー牛乳売り切れだったからじゃねっ?』
『私、購買部に言ってあげようか?』
って、笑われる始末。
『うっせーよ!!』って一喝して終了したんだけど。
『……あっ!!』
大悟たちを追い払った矢先に思いついた。
もしかして、やっぱり親に見られてた!?
めっちゃ怒られてんじゃねーの?
家の真ん前でアレはないよな…。
それからは
ちょっと自己嫌悪。
だから、千雪からの電話で千雪が言った言葉を復唱した。
「…オレの方こそごめんな。やっぱし、怒られた?」
聞くまでもないか。。
『えっ!?なに!?
海斗じゃなくて、他の誰かが怒ってるの!?』
……え??
「だから、そうじゃなくてっ!!
え??もしかして…怒られてない…??」
『私が?誰に怒られるの??』
「そりゃ…。親、とか??」
『えっっ!?
……海斗、なんで分かるの…?』
ほら…、やっぱり見られてたんだ。。
そりゃ、親的には衝撃的だと思う。。
自分の娘が自宅の真ん前で誰かも分かんねー男に抱きしめられてる、なんて。
「ホント、気づかなくてごめん」
ホントに無意識だったんだよ。…なんて、言い訳だよな。
『だって…あの…その…。隠し通せるなんて…思ってなかったけど…けど……』
「そうだよな…。
隠し通せないよな…」
千雪が口ごもるのは、やっぱり怒られた証拠か。
見られてた以上、「別人だよ!?」なんて隠し通せないしな。。
『海斗…。
やっぱり…私、ちゃんと話す…ね』
えっ!?
話すっ!?
親にっっ!?
一週間だけだけど、付き合ってますって!?
「もしかして、オレも話した方がいい…か??」
連れてこい!!って怒られてたら…、やっぱりオレも謝りに行かなきゃ仕方ねーんだよな。。
…ガンコ親父なのかな??
いままで、一度も彼女の親にちゃんと挨拶なんてしに行った事がない。。
莉子の親も共働きだったから家にお邪魔してもいなかった時が多かったし、
たまには顔を合わせた時もあったけど…挨拶ったって、「こんにちは」とか、それくらい。
千雪の家は厳しいのか??
だけど…「娘さんとお付き合いさせていただいてます。一週間だけですけど」なんて言ったら…
事実とはいえ、オレ殴られねーか????
『ん…大丈夫。
海斗、ビックリした??言えなくて、ごめんね…』
そりゃ、言えねーだろ。
「あぁ…、オレは大丈夫。
千雪だけが言いずらかったら…言えよ??
オレも、ちゃんと言うから…」
こうなった原因が
少なからずオレにある事くらい分かってるから、千雪にばっかり押し付けられねーだろ??
殴られたって…。。
『…っ、ありがと』
おっ、おいっ!?
声、震えてるよな!??
「千雪っ!?」
もしかして
泣いて…る??
『…絶対、もう嫌いになられて
怒られるって、思ってたんだもん…っ』
「なんでオレが怒るんだよ」