「僕は、空の偉大さが好きなんだ。いつでも同じ空はない、形を幾万と変えて進み続ける感情めいたものが。なんかさ、空って人間に似てない? 悲しいときには涙を流し、機嫌が悪いときには太陽を隠して、嬉しいときには雲ひとつない青が広がる。見てて飽きないんだよ、僕はそこが好きだ」

 まさか誰かに僕が空を好きな理由を話す日が来るとわな。話が共通するとも思っていなかったが、すんなり話せたのは青山が僕以上に空を愛しているからだろう。

「確かに空には感情があるのかもしれませんね。朝は起きて夜は眠る。そう考えると本当にそう思えてきました」

 なんでもないことがいいと人は言うが、なんでもなさ過ぎるのは実のところ刺激がたりずもどかしさに飢えてしまうんじゃないのかな? 趣味がどうであれ、生き方がどうであれ、人生にスパイスがなければ薄いありきたりな味になってしまう。
 空に思いを馳せていようと、憧れを抱こうと、希望を託そうと、掴もうと、羽ばたこうと、無理なことに全力を出していれば、刺激となり、満足するのが人間だ。だから僕は実のところ満足していたのかもしれない。何もなかった人生に意味を感じていなかったけど、今はこれでいいと言える気がする。

「飛べるといいな。果てのない青空に向けて。翼をいっぱいに広げ羽ばたいて、誰もまだ見ぬ未開の眺めを」

 そうですね、とハスキーな声で歌う。