幸福そうに流れる愚か者。空は泳ぐものじゃなく、羽ばたくものだと気づくその時まで。海を空と勘違いし、天と地を思い違える無邪気な笑い声。空想に空想に空想。憧れはいつかこの身を焦がす、空想を憧れと勘違いしているまでは。
 実はこの空想(ゆめ)は今回に限ったことじゃない、たまに見るお決まりの夢。地上と天上が分からない少年が無邪気に空とい偽り海ともつかぬ中空を漂い、地上に居る人間に不気味と嫌われ陰として過ごしている夢を。少年は気づかないままにただひたすらにさ迷っている海を。
 また今回も同じ。途中までは。いつもはこの夢が覚めるまで続く筈だった、けれど今回は違ったのだ。
 中空をさ迷う少年、地上を見つめ流れる陰。
 そこにざぱん、と強い衝撃が走り身が空へと走る。それはまぎれもない空だ、偽りでもなければ疑似でもない。空想には違いないが、海でも中空でもなく空。憧れの空へと身を羽ばたかせ一直線に浮遊する。
 少年は、そこで本当の空を知ったのだ。遠い空に光が差すように、暖かい空を。これが一人の少女の夢だということも。混雑して空想が繋がったという事も。自分が偽りの空を漂っていたことも。
 高い高い、高らかな高らかな、果てしない果てしない、空を、本当の憧れを少年は知った。空は泳ぐものではなく、羽ばたくものだと。自意識化の中で生まれ育んだ間違いを全て捨て、神聖なる空へ、誰かが託した希望を確かめながら瞬く一瞬の空想の中で。