「だからって雨の日くらいは我慢しろよな」

「………」

「聞いてんのかよ?」

「それでは駄目なのです。それでは…」

 続きの言葉はなく、ぜんまいの切れたオルゴールのように口を紡ぐ。
 考えてみれば僕は青山のことを何にも判っていない。昨日知り会ったのだから当然といえば当然なのだが。けど、知らないで変えていくには、方法以前に試みが常置、緩慢だ
 ため息で自分の中にある疎外を吐き出そうと静かに吐く。思った以上に面映(おもはゆ)く、背もたれにしているコンクリの壁に何度も後頭部を小突かせる。痛みは鈍く、劣等した歴史のように浅く儚く、尊く無縁に刈られた時代の際に蝕まれる。
 どんなに思案しても辿り着けぬ答え。身近に有るだろうそれは、瞬く一瞬のために咲く花。散ってしまえばいつぞ咲くか判らない理想。
 だからいってしまえば花と同じ、僕が水で青山が種。僕が水をやり、青山が花を咲かす。秋本先生は僕を水遣り係に任命したのだ。花を咲かすには肥料から水の配分、日当たりの調整や花のことを理解し咲く工程を予測する想像。ようはこう言うことなのだ。これと同じこと。それを僕がする。
 まずは一つずつ判っていこう、よりよくするために。確かな目標を創造して。

「なあ。青山の一番好きなものは?」

「……空です」

「僕もさ、小さい頃は空が好きでな。暇さえあれば眺めてた。憧れって奴かな? 親に止めなさいって叱られるほどに眺めてた。子供心に、何で空は手を伸ばしても掴めないの? なんて真顔で聞いたほどだよ」