携帯をカチカチと無意味に
弄りながら美羽は廊下を歩く。

キーンコーン…と授業が始まる合図を
どこか遠くに聞いていた。

「はぁ…」

友人らに言われた言葉を
ふと思い出す。

確かに悠のことは好きだ。
けど今の彼女を押し退けてまで
自分の彼女になってくれなんて
言えるわけがない。

「…静かだな…」

授業中なんだから当たり前か、
なんて思いながら
また携帯を弄りはじめる。

指は勝手に受信ボックスを押し
さっき授業中にした悠との
メールを開いていた。



そうだよ



今朝見かけた彼女が
恋人であると肯定する文。
記号も何もない感じが
悠らしいと思って苦笑する。

かわいかったねってメールには
返事をくれなかった。


「っ…」


実は彼女のことは
遠くからちょっと後ろ姿を
見かけただけだから
かわいいとかわかっていない。

「も…っさいあく…」


目元をぐしぐしと
乱暴に擦っていたら
後ろから声が聞こえた。

「おいこら、今授業中だろ?」

この口振りは間違いなく教師。
タイミング悪いな、と思いながら
ゆっくりと口を開く美羽。

「っ気分悪くて…
これから保健室行くの」

注意してきた教師の方を
向いてみると、
たくさんのプリントを持った
保健室担当の杉崎だった。


「何…その大荷物…」
「え?あぁ…岡田の課題」

杉崎のその言葉に
美羽は表情を明るくさせた。

「真樹ちゃん今日いるの?」


美羽はサボりの常習犯で
保健室登校である真樹と
顔見知りである。

そして美羽個人的に
真樹のことをすごく気に入っていた。