ピピピピピピ…

「う~…」

ごそりと動く布団。
いつものように
迷いなく腕は伸びて
音の根源を叩く。

むくりと起き上がる陰。

暫くボーっと時計を
見つめる真樹。


「……ふふっ…」

昨日の放課後にあった
嬉しい出来事を
思い出して上がる口角。

父がいたら、
きっと苦笑いながら
「だらしないぞ」と
言ってきただろうな、と
静かに思った真樹。

「そうだ…」

そう呟くと真樹は
早足で階段を下り、
家族の元へ。

お香に火を付けてから
チーン…と響く音。

手を合わせて
静かに目を瞑る真樹。

「おはようみんな。
今日はね、報告があるんだよ」

微笑みながら
真樹はゆっくりと話す。


「昨日から悠と
付き合うことになったの。
10年越しの片想い、実ったよ。
…嘘じゃないよ裕太」

弟のからかう声でも
聴こえたのだろうか。
真樹は無邪気に笑って答える。

「あたしみんながいなくて
すごく寂しかったけど…
まだ立ち直れないけど…
……でもね」


もう独りじゃないよ

そう言って少し
目許を濡らし笑った。
それから黙って
家族と向き合う。

さて、と立ち上がった真樹は
急いで制服に着替えて
珍しく朝から冷蔵庫を開ける。

中にあるゼリー飲料に
手を伸ばすが、止める。

朝食を採ってみようと
試みてみたが、
やはり体が拒絶する。

若干の吐き気を覚えたが
時間になったので
家を出ることにした。