「今日はダメ。っていうか、もう来ちゃダメ」


「なんで?」


「アナタはただの生徒だから、プライベートにまで踏み込んで来ないでってことよ」




折角教材室に来たんだから、授業に使うテキストを持って行こうと棚をいじっていると


後ろから成宮くんが私の両側に手をついた。





「…何?」


「俺さぁ、こんなに手こずった女ってみーちゃんが初めてなんだけど」


「あら、そう。新しい経験が出来て良かったじゃない。…てか、どいてよ。邪魔」




逃がさまいと棚に手をついて、棚と自分の間に私を挟み込む成宮くんは


少し、怒った表情をしていた。



逃げたくても目の前に成宮くん、背中に本棚があって逃げられない。






「…ここまで面倒くせぇと、泣かせてでも手に入れたくなる」



成宮くんは荒々しく私の首を掴むと、無理矢理唇を押し当ててきた。



息苦しさと頭と背中にあたる本の冷たさに鳥肌が立つ。





「――っ!!いい加減にしなさい!!そういう所が嫌いだって言ってるのよ!!」




頬に平手打ちをすると

成宮くんは私から顔を離した。




何の感情も読み取れない瞳で私を見下ろす成宮くん。






「そんな無理矢理誰かを自分のものにして嬉しい?…言っとくけどね、人の気持ちは力ずくでは動かせないのよ」




もし、力ずくで動く気持ちがあったとしたなら


それは偽りよ。




アナタはその偽りの気持ちだけを得て来たの?





「アナタ…可哀相な人」




成宮くんを残して教材室から出た。