「亜衣く~ん。」

アルトサックスの吉田先輩が、甲高い声で叫んで、亜衣先輩に向かって手招きをした。

「昨日、亜衣くんが勧誘してきた子、来てくれたよ。」

吉田先輩の叫び声とともに、私達の方へ向かって歩いてくる亜衣先輩の姿が、だんだん近くなってきた。

『亜衣先輩が、こっちに来る・・・。』

亜衣先輩の姿が大きくなってくるにつれ、私の心臓は高鳴った。

目の前に現れた亜衣先輩は、昨日、教室に勧誘に来てくれた時と同じ、優しくって大人っぽい眼差しを、私に向けてくれた。

「入部する決心、してくれたの?矢口さん。」

『矢口さん』って、亜衣先輩、言った・・・。

私の名前、苗字だけど、覚えていてくれたんだ。

吹奏楽部の部活見学に来ていた1年生、私の他にも、たくさんいる。

でも、亜衣先輩、他の1年生には、一切話しかけていなかった。

私にだけ、話しかけてくれた・・・。

自惚れかもしれないけど、亜衣先輩のこと、好きになってもいいのかな?

好きになってもいいの?

ううん。
もう、好きになっちゃった・・・。


「あの・・・。私、入部します。」

私は、亜衣先輩の顔を見上げて言った。

亜衣先輩は、こっくりと小さく頷いて、うっすらと微笑を浮かべた。