靭は何事も無かったように立っている。


 これが普通の男子だったら、ほぼ間違いなく胸を押さえて踞るか、転げ回るかしているだろう。


何故なら彼女は、女子シュートボクシング部の副主将を務める程の手練れだからだ。


「だってさあ、靭だって悪いよう。あんなにハッキリ言わなくてもさ、もっとオブラートに包んで言ってあげなきゃ」


 肩を竦めて靭をたしなめたかに見えた齢だったが、靭はドッカと齢の目の前に座り、その瞳を見据える。


「それは偽善だぜ齢。しっかり伝えれば姉ちゃんの勉強にもなるんだ。これは姉ちゃんのためなんだぜ?」