「いやいや、そうは言わないけどな……」


 ホッと胸を撫で下ろす彼女。


「でも姉ちゃん。折角のサーロインステーキ、これはA5ランクか? こんな贅沢な肉を使っても、冷えた状態で喰う訳だから、ただ脂がモサモサしただけの物になってる。ソースも市販のだろ。こんな肉にはヘットを使って、塩とニンニクと少しのバターで……」


「解ったわよ、解りました。次はもっと頑張ればいいんでしょ! それに私にはちゃんと、美紀子って名前が有るんだからねっ!」


 靭の胸にドンドンッと思い切りパンチを入れ、彼女は踵を返して出ていった。


「なんだよ。人の身体をサンドバッグみたいに」