「楽しいお時間でらっしゃいましたね」


 船井は満面の笑みをたたえて美麗を招き入れた。


「ええ、とっても。船井たちのお陰よ」


「ではお願いします、船井さん」


 助手席へ厳が乗り込んでそういうと、車は滑らかにスタートした。


「ねえ船井。もう時間が無いわ、毒島の学校から回って」


「いえ船井さん、お嬢様をお送りした後でないと、仕事途中になってしまいます。本邸へ先に」


 厳は慌てて美麗の言葉を打ち消したが、彼女は一際鋭く言い放つ。


「いいからやって頂戴」


「はい」


 語調は尖って意地悪なトーンだったが、それは深い思い遣りで溢れている。


「すいません毒島さん。お嬢様のお言葉には逆らえませんので」


 船井も満足気に頷いてハンドルを回した。