「お嬢様、そろそろお家の方へ戻られないと。お食事の時間に遅れます」


 腕のスーツを軽く手でずらし、時計を確認した厳は美麗に告げた。


「折角盛り上がってきたのにシラケるわねえ」


「申し訳ありません。私ももっと拝聴したいのですが」


 美麗の歌は正直言ってあまり上手ではなかったが、楽しそうに歌う彼女を見守る時間も、厳にとっては至福のひとときだった。


「嘘! 自分の技量位ちゃんと心得てますっ。……でも、毒島も学校の時間ね。切り上げましょう」


「お気遣い有り難うございます」


 厳は定時制の高校に通っている。奔放に振る舞っているかに見える美麗だが、そういう所にはちゃんと気を配っているのだ。