『矢鎌さん、いい? ソイツよ、その黒縁メガネの男』


 静香はテレパシーで椎菜に指示を飛ばした。


『この人がですか? 普通の真面目な男性に見えますけど』


 静香はチラッと男を見て、頭で言葉を連らねた。


『そうよ。その人は真面目だわ、でも真面目過ぎて遂には壊れてしまったみたいなの。今は真っ黒な感情だけが彼を支配している』


 椎菜は軽く頷くと、付かず離れずその男を尾行し始めた。


『先輩せんぱいっ! バッグの中に手を入れました』


『包丁を握ったわ。彼の心が殺意で満たされている。矢鎌さん、今よ!』


 静香が指示をするが早いか椎菜は叫ぶ。