「おら、お前ら席つけよー」
6月半ば。
梅雨のじめじめした湿度と夏に向けて順調に上がっていく温度に苦しむ生徒達を横目に、担任がいつもの声を教室の中に投げ込んだ。
「暑いー」
「クーラーつけろよクーラー」
「あーお前、団扇かせー」
男子校であるこの学校ではただでさえ暑苦しいこの時期を、一層暑苦しい雰囲気にする。
「はい、お前ら騒ぐな、転校生が来てんだぞー」
担任は如何にも暑苦しそうな表情で言う。
しかし、この一言で、男どもの話題は夏の暑さから一気に「噂」の転校生へと方向転換した。
「あの噂ってまじか……?」
「噂だろ」
「いや、でもまじかも」
「まじか?!」
「てか、噂って何?」
「はぁ?知らねえの?!」
教室中が、ざわめく、ざわめく、ざわめく。
「おい、静かにしろ。高杉、入ってこい」
教室がざわめきの次に包まれたのは妙な静けさ。
そして、そんか独特の緊張の中、教室に現れた転校生。
真っ黒の短髪に、それを中和するかのような色白の肌。
そして、何もかも否定し、ブラックホールに引きづり込むような黒く、暗い瞳。
こいつ、危ない。
クラス中の人間の本能がそう警告音を響かせ、それに条件反射して息を呑む。
「高杉、軽く自己紹介」
担任の指示で、注目の的である転校生は、これまでにない、冷たく冷め切った無愛想な第一声を放った。
「高杉隼人です」