ドン、と荒々しくカウンターに手をついたのと、沢口オーナーがカウンター内に入って来たのはほぼ同時だった。
俺の様子を見てすぐさま、オーナーは口元を意地悪くつりあげた。


「手こずってるなあ」


くつくつと笑いながら冷えた缶ビールを俺の前に差し出す。それを受け取りながらこっちは溜め息。
恨めしい思いで目の前のオッサンの顔を見つめた。


「手こずってますよぉ。ホント、どっから直したらいいんだか」

「まあまあそう言うなよ。声はいいだろ?」

「声だけは、ね。あとはもう最悪」


肩をすくめて、お手上げしたい気分だ、と告げる。俺にはあの男を矯正できる自信がない。


「眞樹くんにそこまで言わせるなんてなあ、やっぱりあのガキんちょは一筋縄じゃいかないねぇ」

「他人事だと思って。沢口さん楽しんでるっしょ?」


ひっでえなぁ、自分から敦士を薦めてきたくせに。

俺がビールに口をつけながらブツブツこぼすと、沢口さんは眉を下げて苦笑いをもらした。


「でもなー、あの声は君の好みに合うと思ったんだよ」

「……ま、それは当たってますけど、ね」

「だっろー?!まだまだこのオジサンの耳も捨てたもんじゃないだろ?」