[隥本]

「こんばんわ、作家先生」

「作家先生ってのは、止めてくれ」

苦笑を漏らすのは、俺と同い年ぐらいの男。
20歳くらいなのに色々と苦労しているらしい。

「…相変わらずカッコいい色してるな」

作家先生は俺の隣に座ると、頭を撫でる。

「…どうも、です」

「…仕事は」

「まあまあってとこですか」

「そっか。萱草(カンゾウ)さんに宜しく言っといてくれ」

頭の名前が出て、思わず目を見開いた。
この人と、うちの組の頭と。
どんな接点があるんだろうか。

「昔、色々あって」

作家先生には、『色々』がついて回っている。
そこが人を惹きつけるのかも、と考えていると、久留米がトレイに三人分の晩飯を持ってきた。

「いらっしゃいませ」

「…どうも」

「…お酒は?」

「最近止められてる」

仕事が忙しくなるからってさ

「…嬉しい悲鳴ってやつねえ」

久留米が紅茶を啜った。
俺は帳簿などを片付けると、モヤシ、ピーマン、キャベツの入った野菜炒めに目をやった。

「キャベツ焼けてねえじゃねえか」

「いやあ、切ったの忘れちゃって」

ーーーバレちゃった?

俺は溜息を吐くと、もういいよと言い、首を振った。