[真朱]
たまにこうして、竹之内に勉強を教えてもらっている。
今やってるのは数学A。
ちなみにあたしは高校一年生。
「あたしだって文系ですよ」
市立土器高校の特進科に何とか合格したものの、勉強量と進度の早さにギブアップ寸前。
数学なんて分からない。
唯一出来る国語さえ苦手な古典の文法なんかが出てきて、今回の期末は絶望的だ。
「…こんな計算やって何時使うんだろうな」
バカにした様に鼻で笑って、竹之内はシャーペンを動かし始めた。
サラッと問題を解き終えて、あたしにノートを返す。
少し癖のある数字が綺麗に並んでいた。
「そーですねえ…何か範囲伸びるっぽいですよ」
ノートのページを捲る。
「げ、どこまで?」
「二項定理まで」
「……頑張って」
まるで他人事。
いや、他人事なんだけど。
チラリと竹之内の方を見れば、何か書いていた。
何だろうと目を細めると、手で紙を覆われた。
「…盗み見、ダメ、絶対」
片眉を上げ、あたしを睨む。
「竹之内さんて、学生?」
「…どう見える?」
「どっからどう見ても浪人生」
言うと、眉間にシワがよった。
この人は、案外子供っぽいところがある。
「…酷いな」
「じゃあ、何してるんですか?」
「………」
ダンマリか。
「その格好止めたらどうですか?」
何時もジーンズにワイシャツ。
しかも中に着ているポロシャツが黒か、灰色かのどちらかだ。
「めんどくさいから良い。大体…」
「『図書館に来るのに華美な格好してくるのがおかしい』、ですか?」
「……そう。」
メガネをぐい、と上げ、また紙に何か書き始める。