[Giove]
12:13
煙草の火種がポロリと落ちた。
これ借りた車なのに。
ま、いっか。
ざりざりと靴でマットに灰を広げると、前を向く。
「…あ?」
住宅街に不釣り合いなスーツを着込んだ男がこちらに向かってきた。
俺はエンジンをかけ、窓を閉めた。
そして茶髪のウイッグを被り、時計を確認した。
12:14
「開けろ」
案の定、低い声がした。
俺は少し窓を開け、男を見た。
「…何かしら?」
「寺田のワンコだろ。名前は」
「ラッキー・ルチアーノ」
思いついた名前を告げた。
「外人か?」
「そうですけど」
くるなら早くしろ、真朱。
「…女は」
「さあ?」
ハンドルに寄りかかり、笑顔で答えてやる。
苛々した表情の男は眼鏡をかけていて、色が白い。
あまり表立って作業してないんだろう。
オタク、って言ったら酷いか。
モヤシだな。
こんな奴を寄越すなんて竹之内がいる岡田組は明らかに喧嘩しに来てない。
何でだろうーーー