バイトを始めた当初、店長はあたしにいろんな話をしてきた。
何故、居酒屋の店長になろうと思ったのか。
奥さんとのなれ初め。
幸さんの話。
そして、自分も
昔、幸さんにお世話になったことがある、ということも。
別にだからって、どうだとかは思わなかった。
所詮あたしには関係のない世界の話で、店長も幸さんもとても優しい。
だからあたしだって、幸さんとは普通に接するし、店を辞めようだとも思わない。
この店に来る常連さんは
年齢層も幅広ければ、職種だって幅広い。
幸さんのように、その世界にいる人もいれば
同伴前に寄るキャバ嬢だっている。
競馬の解説者もいれば、風俗店のオーナーだっている。
むしろ、かたぎの人間の方が、少ないような店だった。
だけどあたしはこの店を気に入っている。
何故だかは分からないけれど
ここにいる人たちは皆、肯定はしなくても
あたしを否定する人はいないだろう。