『いらっしゃいませ』
あたしのバイト先は、地下に降りたところにある、たぬきの像が目印の
昭和をイメージした居酒屋だった。
こじんまりとした店内では、店長が一人と、バイトが一人。
それでも、逆にそのおかげか店長の人柄か
ここに来るお客さんは皆仲が良く、働き始めたころはあたしは高校生だったというのに
幅広い年齢のお客さんに仲良くしてもらっていた。
『幸さん、ビールでよかったですか?』
『うん、泡なしね』
『はーい』
サーバーを出前に引くと、金色の液体が溢れる。
ジョッキを近付けながら、それを収めるあたしの姿を、幸さんはニコニコとしながらずっと眺めていた。
孫のようだ、と
数回目かに会った頃に幸さんはあたしに言っていた。
"うちの孫も、ちょうど由実ちゃんと同じような歳やってな"
‐殺されたんだよ。
『はーい、幸さんお待たせしました。
お食事されます?』
目の前で、ニコニコと笑う幸さん。
メニューを見ながら、悩んでいるようだが
結局いつも、メニューにないものばかりを注文する。
あたしみたいな子供に言われたくはないだろうけど
ほんとに、ほんとに可愛い幸さん。
山本組の会長さん。