終業式が終わって、冬休みに突入した。


当然、先生に会うこともなくなって。


保体の教師だから、補習もないわけで。


先生に会うことは全くなかった。


「寂しい…」


「あぁ?何だぁ、綾部。欲求不満か?」


そう聞いてきたのは、国語の教師の宗方 蒼吾(ムナカタ ソウゴ)先生。


曲がったところが大嫌いで、ちょっと口が乱暴だけど、優しくていい先生。


男子に異常に人気があるんだよね。


ちょっとでも先生に会いたくて、侑真先生と仲のいい蒼吾先生の補習にやってきた。


でも、古文を見ると、気分も萎えに萎え……



ふと、目に止まったのは平兼盛の句。


「忍ぶれど色に出でにけりわが恋は物や思ふと人のとふまで…?」


一度読んだだけじゃ分からなくて、疑問はたくさんあった。


「ねぇ、これどういう意味?」


「ん?これはなぁ、気づかれねえように気持ちを隠しているが、周りの奴に病気じゃねえかって心配されるほど好きだ。って唄だ。」


「…気持ちを隠す」


無意識に復唱していた。


「これいいね!先生が一瞬格好良くみえたよ!」


先生は腕組みをして、自信満々に言った。


「馬鹿言え!俺はいつもかっこいいだろうが!」


忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は 物や思ふと 人のとふまで――。


私は、この日からこの唄が大好きになった。