「小春さん。」
懐かしい縁側に1人座って満月を見ていた。
懐かしいっ母の声で我に返る。
小春。
そう、こっちの世界では古田小春。
と名乗ることにしたのだ。
「私もねこんなことがあったわ。私の場合、幼馴染の玄さん、夫との結婚で。幸せで幸せで怖くなったの。」
「幸せだったのに?」
「えぇ。そういうものなのよ。」
「迷って迷って初デートの場所に行ったの。そしたらどこかに吸い込まれるようにして中学時代にスリップしたわ。」
ごくりと唾を飲み込む。
「数か月と居たかしら。楽しくてね。そしたらある日気づいたの。このままじゃ生きないって。戻らなきゃって。」
「戻れたんですか?」
自分の手が震えているのが分かる。
「えぇ。戻れたわ。そんな事を思った瞬間。」
「あなたは何があってここに来たかわからないわ。20代の木葉が見れた。それは嬉しいけど。」
「大切なものを忘れずにね。」
涙で満月がゆがんだ。
「大切なもの?」
「自分でつかむのよ。木葉なら必ず分かるわ。」
涙があふれ出た。
次から次へと雫が落ちてきた。
母の口から【木葉】なんて聞けたの母が最後に残した一言以来だよ。
泣いた。とにかく泣いた。
泣いて泣いて、これ以上雫が落ちないだろうってくらい泣いた。