もう遠い昔の記憶だけど。
決して消えることはない。
でも、思い出したくはない。
今の幸せがあるから。
あの頃の嫌な思い出を全部消してしまうくらい、今はお姉ちゃんが好きだから。
でも、忘れたわけじゃないんだ。
今・・・・・・
そう実感してしまった。
私はもう過去の話。
でも、沙織の苦しみは過去のものじゃない。
今、現在。
沙織の両親は私の両親よりも年上で、お父さんはもうすぐ定年だと言っていた。
沙織は、長女として、家族を守る為に戦っているんだ。
「沙織の妹、お母さんに暴力ふるうの?」
私の質問に、沙織は呆れたような笑みを浮かべながら頷いた。
「高校生にもなって情けないけど。もう身長も体重もお母さんより上なのに。まだ妹だからマシなのかな。あれで弟だったらマジでやばいよね」
そう言って、沙織は左腕のカーディガンをめくりあげた。
「この傷ね・・・・・・先週、お母さんと妹の間に入った時に、ガラスが当たって」
もうかさぶたになっていたけど、痛々しい傷だった。