なのに。


直哉サンは笑うでもなく、


ただ



ただ、優しく撫でるだけたった。



まるで、小さい頃、お母さんに叱られて泣きじゃくるアタシを抱きしめて、背中をトントン。ってしてくれるお父さんみたい。



なんて、仮にも人気No.1のヴォーカルである直哉サンには言えないけど。



だからかな?



自然と頬にこぼれ落ちた。




さっき見た光景が、ふと瞼に浮かんで…ギュッと目を閉じた。



『なぁ、綺乃。…泣け。』




直哉サンのたった一言で、アタシの意思に反して涙がこぼれ落ちていく。




アタシは、こんな涙の止め方を知らない。




『―――ッ。ヒッ―――‥ウッ―――…ッ―』





直哉サンは、何を言うでもなく、何を聞くでもなく…ただ、優しく…優しく、撫でていてくれた。