そしてその後のコーヒー牛乳。

あれは無意識だった。

ノドが乾いたからで、別に菜穂が口をつけたからとかじゃない。


でも菜穂は固まってしまって顔真っ赤にして。

俺まで気まずくなっちまって…。


でも、そのまま別れたくなくて俺はあいつを待った。

一言、ちゃんと謝りたかったから。

嫌じゃなかったって信じたいけど、驚かせたのは事実だし。


でも、この程度で謝るとか初めてで。

なんでこんくらいで謝る必要があるんだって散々考えた。

でも相手がアイツだから、菜穂だから。

避けられたりしたくねぇから。


このくらいで謝るってのが恥ずかしくて謝った後、逃げるように屋上を出たけど、教室でチラッと見た時のあいつの笑顔がまた可愛くて…。

でもそんなこと思う自分が笑えて吹き出した。

そして”犬みてぇ”って口走った。
俺は教室じゃほとんど口を動かすことはねぇし、女と話すこともない。

でも今は菜穂と話すことが楽しかったから夢中だった。

周りを見てなかった。

どう考えても目立つってわかってるのに、俺ら2人は。

外人みたいで人形みたいな女、そして俺。

自意識過剰でもなんでもなくて事実。


気付いた時は女が寄ってきてた。

いつも近くに来て話し掛けて来るうざってぇ4人。


そして今日は菜穂が絡まれた。

そして追い払うと菜穂の机を蹴りやがった。


本当はあの女捕まえて菜穂に手出したら許さねぇって言ってやりたかった。

でもプライドが邪魔した。

こんなの俺らしくねぇ、恥ずかしい。無理だって。


そして菜穂と教室で話すと危ないから話し掛けるなと言うと、あいつは俺が大変な目にあうから話さないと受け取ったらしく、すげぇ悲しそうな顔を見せた。


心が痛いって思った。

俺はただ、あいつに誰も手出して欲しくなかっただけだったのに。
考えても、考えてもやっぱりあいつは誤解してる気しかしなかった。

どうやったら、あいつを守れる?

そばにいてやる?

いや、そんなことしたらあいつはからまれるだろう。


あいつから離れたらいい??

そうだ、あいつと縁を切れば別に何も被害はないだろう。

もう話すのはやめよう。

屋上にももう行かないでおこう。

修二といればいいんだ、昼休みに。

そういえばあいつ、隣の席が菜穂って今日知ったらしく、なにか言いたげだったな。

なんだったんだ??



こんな別のことを考えてたのに、別なことなのに菜穂に繋がっていき、考えれば考えるほど俺の手はあいつを欲した。

チラッとあいつを見ると後ろ姿だったけど、一瞬、綺麗な横顔が少しだけ見れた。


無理だと思った。

そして俺はあいつを強引に屋上へ引っ張っていって…告白した。

逆にさせたようなもんだけど俺は俺がしたって思ってる。


不器用だって自分でわかってるけど、精一杯の言葉で。


それにしても腰抜かすとかおもしれぇ奴。

ほんとあきねぇ。




でも、これからは守ってやろう。

一緒にいるだけじゃなく、色んな奴から。

そしてもう一度、信じてみよう。

女を。

あいつなら大丈夫な気がするから。
わたし、産まれて初めて彼氏が出来ました。

その彼氏は…


「今日の放課後?あぁ、無理。中学のときの奴と予定あるし。」


付き合って今2日。

わたしが思ってたのは最初の頃ってラブラブとか、そんなの。

でも、すごく冷たいです…。

くじけそうです…。




涼子ちゃんは喜んでくれて、鈴ちゃんは信じられないって顔しながらも喜んでくれたけど、ぬか喜びだったのかも。

テレビとかで見る恋人同士とは全然違う。

ケータイ番号だって聞いたけどメールしても返事ないし、電話なんて

「用事ないならムダにかけてくんなよ。」

って先に言われてるし。


恋人って用事なくたって、暇なとき電話したりメールしたりするもんだよね??

憧れの関係とは違うみたいです。



デートだってまだない。

一緒に登下校だってまだない。


ていうか…前までの関係と変わったことはケータイ番号知っただけなんですけど。
「菜穂、学校はどうだ??」


いつものように家で食事をしてるとパパが言ってきた。

パパは貿易会社務めで、ママは専業主婦。

うちの家族関係は…


「あの話は本当にいいの??それより、菜穂ちゃん。彼氏なんて作ったらママ嫌よ~??菜穂ちゃん独り占めなんてさせないんだから♪」

「か、彼氏!?!?だ、だ、だ、ダメに決まってる!!パパは絶対に許さんぞ!!それだったらすぐ行かせるからな!!」


超甘々です…。

昔から娘一筋。

箱入り娘だって自分でも思う。

どこに行くにも家族で一緒に。


「菜穂にだってそのうち彼氏くらい出来るよ。そろそろ娘離れしないと危ないって、2人とも。」

わたしのたった1人の兄弟のお兄ちゃんは高校2年生。

わたしの1こ上。


「じゅ、潤!!な、な、なんてことを!!ま、まさかお前は彼女がいるだなんて…」


「彼女?いないいない。」


「そうかそうか。菜穂も恋人なんて作ったりしたらダメだぞ。パパがいい人見つけてあげるんだから。」


うちの家族はこんな感じで今日も平和(?)です。

家族…すごく仲良しです。


彼氏が出来たなんて言ったら殺されそうです。
うちのお兄ちゃんは名前は潤。

もちろんハーフ。


彼女は本当にいないらしいけど、お兄ちゃんのファンは大勢。

家で待ち伏せしてる女の子だって多数。

スカウトしに来る人だってたまにいる。


そんなお兄ちゃんはすごく優しくて自慢の兄♪

ブラコンなんだ。


そんなお兄ちゃんにもまだ彼氏出来たって話してない。

彼氏って言えるのかまだわかんないし…。


コンコン。


「はい??」


「俺。入っていい??」


「うん、いいよ♪」


わたしが雑誌見ながらくつろいでた時お兄ちゃんが部屋に入ってきた。

わたしはベッドで横になって雑誌を見てたから、ちょっと離れたところにある勉強机の椅子にこっちを向いて座った。


「明日、お前暇??」


「へ?明日学校じゃん。」


「だから放課後。明日お前忘れてる?結婚記念日だそ、うちの親。」


「ギャッ!!忘れてた!!お兄ちゃん何か買った!?」


わたしの驚いた声にお兄ちゃんは笑った。

大げさすぎたのかな??

でも素で出ちゃったんだもん。

それくらいうちの家庭ではビックイベント。
「そんな早口にならなくてもいいだろ。俺もまだだし、何か買おうぜ。放課後。」


ニッコリ笑って言った。

お兄ちゃんってわたしよりも日本寄りの顔なんだよな。

わたし思いっきりパパの血ひいてるけどお兄ちゃんはママだし。

でも目鼻立ちハッキリしてやっぱいい男だよな。

そんなジロジロ見てるといつも言われる。


「またお前はボーッとして…。得意の妄想??いいな、じゃあ明日中央公園に4時半な。遅れるなよ。」


そう言って部屋を出て行った。

お金…わたしあったっけ??

何買うつもりだろ??


そんなとき鳴り響いた携帯。

この着信音…涼風くん!!!!!!!


涼風くんからのメールだった。


【誕生日いつ?】


初めて届いたメール。

ぶっきらぼうな言い方が涼風くんらしい。

わたしは無意識にそのメールを保護してしまった…。

初めてなんだもん。



【10月3日だよ♪涼風くんは??】


ほんとは知ってる。

鈴ちゃんが教えてくれたもん。

9月30日。

だけどわたしの誕生日だけ答えてたら返事が来ない気がして。

返事がまた見たかったの。


すると10分くらいにまたメールが。


【9月30日】


たった一言のメールなのにまた保護した。


【わぁ~近いね♪お祝い一緒にしようね。】


そう送ったけどいくら待ってもその日、返事はなかった。

悲しすぎる。

でも気にかけてくれたって、思ってもいいよね??

ちょっと幸せな気分で寝れた。
「だから言ったじゃない。苦労するだろうって。」

朝、涼子ちゃんはまだ来てなくて、鈴ちゃんにメールが返って来ないし冷たいって相談をしていた。

でも来たことをホントは最初、自慢したんだけどね。

呆れられたけど。


「だって…好きだもん。」

鈴ちゃんにそう返すと大きくため息をつかれた。


「じゃ、耐えるしかなさそうね。お疲れ。」


そう言うと閉じていた本を開いて読み始めた。


「冷たいなぁ。もう…」


わたしは唇を尖らせて言っていると鈴ちゃんがメガネの奥からジッと睨んできた。

エヘッと笑って見せるとまた本を閉じて口を開いた。


「そういえば、付き合ってること秘密にするの??」


わたしたちが付き合ってるなんてまだ鈴ちゃんと涼子ちゃんしか他の人には知られてないと思う。

涼風くんが仲のいいと言ってた人に言ったとは…何か思えないしね。


「秘密にするわけじゃないけど言う人がいないみたいな??」


友達が少ないってことだし、苦笑い。


「あのね、菜穂。涼風は相当な人気があるってわかってるよね?あの口の悪さでもファンクラブが密かにあるらしいのよ。それでもって菜穂、あんたも相当な人気があるってわかってる??その外見でその笑顔。憧れの的なのよ。あんまり人に言わないほうがいいかもってわたしは思うわ。」


わたしはつばをゴクリの飲んで聞き続けた。


「でも内緒にいつまでも出来るわけないと思うし、バレたら嫌がらせだってされるかもしれない。それは覚悟しとかなきゃダメよ?」


わたしは鈴ちゃんを見つめ、コクリと頷いた。

別れたくなんてないし…。


「もしも噂が流れたら出来るだけわたしたちのそばにいなきゃダメよ。」


そう言うとまた本を読み始めた。

そばにいたら巻き込まれるかもしれないのに、そう言ってくれるの??

初めての友達だし…胸が痛くなって鼻がツンとしてきた。


「ありがとう…グスッ」


「ゲッ、泣かないでよ!!気持ち悪い子ね!!」


こうやって突き放す鈴ちゃん、やっぱりいい人。

友達の暖かさにまた触れられた。
その日の2時間目が終わった頃だった。

数学の時間爆睡してた涼風くんはまだ寝てる。

テストとかもうすぐなのに大丈夫なのかな。

そんなことを考えながら席を立って鈴ちゃんのところへ向かおうとしていた。
(鈴ちゃんは基本的に動かないからうちらがそばに行くしかない…)


ガバッ。

後ろからまた抱きつかれた。

この香水は…━━廉。


「クリスちゃん会いたかったわ~!!」

実は廉、まだ入学して間もないというのに停学をくらってた。

どのくらいだろう?3週間くらい見なかったかな??

内容は喫煙。

うちの学校は法律を破ることには厳しいから。

だから涼風くんに吸ってほしくない。


「わっ、廉!!もう離れてよ!!」


涼風くんに見られるのが嫌でわたしの首元で組んでる手を離そうとしていた。

チラッと涼風くんを見るとまだ寝てる。

ちょっとホッとした。