「壮陛のこと、忘れてないよ。これからも消えないよ。」

そんなわたしの左の薬指には違う指輪があった。


「ごめんね、壮陛。」


裏切ったつもりはない。

でも…わたしだって辛くて。


「菜穂…──。」


肩に触れた大きな手。


「聡。」

振り向くとそこには婚約者の姿。


「壮陛くん…──必ず菜穂を幸せにします。」


そう言って手を合わせた。


壮陛、絶対にわたし…あなたのこと忘れない。

向こうに行ったら会ってくれる??

聡が許してくれるなら、会ったらすぐ抱きつきたい。

そしてたくさんキスしたい。

壮陛からもしてくれるでしょ??



「壮陛、わたし苗字変わるの。もう完全に日本人だよ。赤星菜穂。似合うかな??」


そう言って手でロウソクの火を消した。


「…──また来るね。」


お墓に背を向けて歩き出した。



「あのさ…──」


「ん?」


突然の聡の呼びかけ。


「俺、聞こえたかも。」


「なにが??」


「──菜穂をよろしくお願いしますって。」