俺はもう覚悟を決めていたと思う。

無意識に。

そう決意して手を掴んだんだと思う。


「…いつから?アメリカ。」

離したら逃げそうで。

だから手は掴んだままだった。

横を通っていく奴らがチラチラ見てくる。

こいつら別れたはずだろ?って顔をしながら。


菜穂は驚いた顔を最初はしてたけど掴まれた手をチラッと見た後口を開いた。


「1年ちょっと…かな。」

低い声。

菜穂の白い顔がどんどん赤くなっていってるのがわかった。

こいつもいきなりで恥ずかしいんだろう。

1年。

1年間顔が見れないのか…。


そのとき風が吹いた。

階段の踊り場の上の窓から入ってきた冷たい風。

俺の…不安を取り除くかのような風だった気がした。

覚悟、決めただろ。って。


「俺、待つ。だから…」


菜穂は目を大きくして俺を見上げた。

眉毛をハの時にしてた。

頼りない表情。

でもやっぱり愛しい表情。


もう何も言わず引っ張った。

カバン、教室に置いたままなのに無理矢理靴を履かせ、校門に向かった。


「ちょっ…──、壮陛!?」


って困った菜穂の声も無視した。


校門で待ってたさっきの女も無視した。


頭の中には木下のことなんて微塵たりともなかった。


これから話す内容をまとめ、そして菜穂の返事の不安しか頭にはなかった。