菜穂に言葉をかけられたのは


「俺今日、飲み会だから。」

だけだった。

それであいつの顔が曇った。


飲み会では絶対何も起こらないし、大丈夫。

それは信じててほしかった。


皐と会って、ちゃんと菜穂の存在話して、お前のとこ戻ってきて絶対あの赤星って奴に渡さないようにしよう。

昨日そう決めた。

明日まで…我慢してほしかった。

菜穂のその綺麗な曇りのない目に見つめられると嘘が苦しいんだ。

黙ってるのが辛い。

だから避けた。


木下が来てから逃げるように教室を出た。

菜穂を少しも見らずに。



飲み会では予想はしてたけど木下が酔い、送れと言う。

周りも応援してるのか知らねーけど送れと言う。


あんま飲んでなかったし送るだけ送った。

家の前でキスをせがむ木下に絶対しなかった。

菜穂とも最近してねーのにお前なんかとできるかって思った。


「あんたみたいな女、俺好きじゃねーんだよな。」


顔を真っ赤にして、でも涙目になって家に入ってったっけ。


帰るときに空を見た。

夏の星空。

でももう夏は終わる。


明日、全て俺も終わらせてくるから。

誕生日の日は絶対一緒に笑ってばっかいれるようにするから。


少しでも軽くなるような気がして走って帰った。