「全く…頭になかったです。別れ…壮陛と…。」

手で口を押さえながら喋るわたし。


「無理して自分を抑えることないと思う。菜穂ちゃんが無理しないようにあわせてくれる人、たくさんいるから。」


そう言うと一口紅茶をすする赤星さん。


別れる…抑える…無理しない。

なんか一気に場面が変わりすぎて。

考えてもみなかった別れという言葉、理由、意味が並べられて。

黙っているわたしに


「考えの違いって1番きついよ。」


ってダメ押しをする。



その後一緒にバイトに行って、バイトをしたけどあまり記憶がない。

壮陛のこと、赤星さんの言葉の意味を考えまくってた。

上の空だった。

…そして壮陛は飲み会。

ミス北洋と。


考えるだけで泣きそうになってきた。

言葉がほしい。

安心できる言葉が。


壮陛、わたし今不安だよ。

聞いたら言ってくれるかな??


「お前、まじうぜぇ。考えすぎ。」


って。

あの上から目線の口調でもいいよ。

今すぐ──言って欲しい。



でもその日も連絡はなかった。
わたしが一晩考えたこと。

うん、言おう。



そして実行するときがきた。



「あれっ?壮ちゃんは休み~??」

入り口から聞こえたミス北洋の声。

そう、壮陛はもう3限目なのに来てない。

わたしは走って話しかけた。


「あのっ!!」


そう、わたしが言う相手はミス北洋の木下さやかさん。

壮陛のこと、どう思ってるのか、どういう関係なのか。

壮陛に聞きたいけどきっと壮陛ははぐらかして言わない。

こういう話が好きな女の人ならきっと答えてくれる。

特に自分に自信がありそうなミス北洋なら。


ミス北洋は目を大きくしてわたしが話しかけてきたことに驚いた様子だった。


「なに?」

でもその様子はすぐに変わり、自信に満ちた顔に。

昨日わたしは壮陛と一緒だったのよ、とでも言ってるように見えた。


「あの…ちょっと話があって。」


そう言って移動。

人気の少ない階段に行った。


「話って何?まさか彼氏に近づくなー!!とか言うつもりじゃないよね??」


笑いながら言うミス北洋。
「いえ、言うつもりはないです。」


なんでわたしが脅えてるんだろう。

足がカクカクする。


「だよね~。で、話って?てかホントに外人みたいが顔してるのね~。」

そう言うとまじまじとわたしの顔を見てきた。

この人はわたしと違って全く脅えてない。

自信、強さ、色々持ち備えてる人なんだろうな。


「壮陛のこと、どう思ってるんですか??」


そう聞くとアハハと甲高い声で少しだけ笑われた。


「壮ちゃんのこと~??あれだけいい男だもん。横に歩いて欲しいわね。意味、わかるでしょ??」


奪うという言葉を使わなかっただけだろう。


「やっぱりそうなんですね。まだ友達なんですか??」


こんなこと言うんじゃなかった。

ミス北洋は驚いた顔をしながら


「まだ友達て…別れたわけ?は?どういう意味??」


「わ、別れてませんよ!!」


焦って言うわたしに勝ち誇った顔で小さく頷きながら言った。


「うまくいってないんだね~。あんま喋ったり、連絡とったりしてないからわかんないってことかぁ~。残念だけどそこは秘密。でも昨日は壮ちゃんが家まで送ってくれたよ。」


もう何も言えなかった。

自分の行動が間違ってたのかもしれない。

放心状態のわたしにまだ続けるミス北洋。


「わたしフラフラだったから~、手つないでくれて~…」


…──やめて。


「心配そうに声もかけてくれて~…」


…──聞きたくない。


わたしはもう走り出していた。
「壮ちゃん、終わったら送ってってよぉ~!!」


最近いつもこれだ。

バイト中にいつもこう言ってくる。


「はぁ?他に誰かいるだろ。」


木下さやか。

1つ上だけど俺は敬語なんて使わねぇ。

てか木下が敬語はやめてって言うしな。


「壮ちゃんがいいのっ!!!」


「めんどくせぇから嫌。」


というよりこのことが菜穂にバレたら嫌だから嫌。


最近、あいつの様子が本当におかしい。

木下のこと、心配してたから俺ちゃんと言ったよな。

指導係なだけで別に何もないって。

確かに綺麗な部類だとは思う。

でもそれだけ。

俺は木下に何の魅力も感じたりしてねぇしあいつが心配するような理由、何ひとつ作ってるつもりはない。

お互いバイトしてるし遊んだり出来てないのが原因?

それならそれで休み合わせるとかしてくるだろ。


俺がずっと引っかかってること。

それはあいつのバイト先に男がいて、そいつのことをいつもいい風に話す菜穂がいること。



俺より近い存在になったりしてねーのか…って柄にも無く考えすぎてしまう自分が情けなかった。
「壮ちゃん、今度飲み会行くよね~??」


またも木下が俺のところに来て話しかけてくる。

てか飲み会ってでかい声で言い過ぎなんだよ。

菜穂に聞こえるし。


「行かねぇ。」

いつもより冷たくあしらった。

こいつに興味ないってこと、菜穂の目の前で表現しとかなきゃあいつまた勘違いしてしまうし。

不器用だからな、俺。


「まじでぇ~!?でも行くことになると思うよっ。」


どういう意味だよ…。

ちょっと目を細めて木下を睨んだ。

それに木下は笑顔で返してくる。

てかなんで毎日バイトで一緒なのに教室来るんだよ。

鈍感じゃねーから分かってるといえば分かってるけどバイトが一緒ということもあるし、ほかのバイトの奴らとも仲良しの木下を敵にまわすのがめんどくさくて他の女等のように暴言を吐けないのがまどろっこしかった。



チラッと菜穂を見るといつもの2人と笑ってる。

大丈夫だよな??


信じるしかなかった。
グイッ!!

帰ろうとしたとき、フジと俺を引っ張ってきたすげぇ力があった。


「ちょっと顔貸して♪」


そう言うのはいつも菜穂と一緒にいる青木。


「ということで壮陛ちゃん一緒に行こっ♪」


フジも青木みたいな喋り方で言う。

青木の横では俺のすっげー苦手な本田もいる。

本田は言いたいことズケズケ言うし、それが当たってるし、反論できねーんだよな。

こういうストレートな女で気の強い女が俺は苦手。

てかどこに行くんだよ…。


バスに乗ってフジと青木ははしゃいでる。

本田は本読んでる。


不思議に思ってたけど方向が菜穂の家の方向と分かったときピンときた。

ナイトカフェか、と。



──カラン──

青木が勢いよくドアをあけた。


「いらっしゃいませ~。」

という声が響く。


菜穂がビックリした表情をしながら入っていく順番に見ていって俺のときに視線を止めた。



「ちゃんと働いてるんだ。」


って思わず声をかけた。

白いシャツに黒のスカート、黒のエプロン姿の菜穂がすごく可愛く見えて。


案内した後、後ろからメニューを持ってくる男が見えた。

たぶんこいつが高3の奴だろう。


…俺とタイプは違うけど爽やか系な男だったから無性に腹が立った。
何話してんだよ。

さっきからお前全然こっち見てねーよな。

ずっと菜穂は男と喋ってた。

笑顔を見せながら。


菜穂が注文をとった後、苦手なこの女には俺の考えは察知されてたらしくまたやられた。

「菜穂、あんまり男の人と喋っちゃだめよ。涼風がさっきからソワソワしてるから。」


「なっ!!!!!」


勝手に口から出た言葉だった。

またやってくれた、本田の奴。

しかもまた反論できねーし、俺。


「さっきからチラチラ見てみっともない。あんただって毎日してることなんだから堂々としてなさいよ。」


あぁそうか。

この状況を菜穂は毎日見てるんだ…。

あいつが辛い思いしてるって今更ながら身にしみて感じた。

何も言えず俺は黙ってた。

悪かったって思いながら。



「ねぇ、涼風。あんたさ、追っ払えない状況はわかるけど今のでわかったでしょ?菜穂の気持ち。あの子、これ毎日、しかもずっとよ。」


菜穂が去った後、本田がいつの間にか本じゃなくて俺を見ながら言った。


「そうよ。あんたさぁ、追っ払えない状況なの?ガツンと言いなよ、ガツンと。迷惑って!!」


次は青木まで。

あぁ、こいつらまじで苦手だ。


「めっちゃおもれー!!壮陛がめっちゃ困ってる!!」


フジは助けるどころか笑ってるし。


「それよりさ、俺思ったんだけどあのバイトの男、ほんとイケメンだよな。しかも菜穂ちゃんとよく話してるよな。でさ、菜穂ちゃんの顔よーく見ながら話してるよな。意味、わかる?」


「「は?」」

不本意ながら青木とかぶって言った。


「お前ら鈍感だな。多分あいつ…菜穂ちゃんに気があるな。」


フジがこっそり指差す方向には高3の奴と見られる奴がいた。
そんなとき菜穂が何か運んできた。

去ると同時にその男も来る。


ほんとに爽やかな顔してやがる。

パーツパーツが整っててもう大人っぽい顔だし。


「な、なにか??」


やっべ!!見すぎた。

と思ったら全員見てたらしくみんな慌ててた。

本田に至っては普通だったけど。


「菜穂ちんがいつもお世話になってます♪」

ゴマかす青木。

「こちらこそ。菜穂ちゃんが来て楽になったし華になるんで。」


菜穂ちゃん…。

勝手に呼ばしてんじゃねーよ。

名前で呼ばせてるの、ほとんど仲いいやつだろ?

そいつ、そんな仲いいのかよ。

去って行ったあと


「あんたって単純な男よね。表情で全部わかる。」


本田がフッと笑いながら言う。

水ふっかけてやろうかと思った。


見ないようにしなきゃいけねーのに見てしまう。

めっちゃあいつら話してるし。

フジがあんなこと言うからそうにしか見えねぇ。

菜穂、絶対気付いてないだろうし。


めんどくせーことになってきた。

だからバイトさせるの嫌だったんだよ。

俺の目の届かないとこに置きたくなかったんだよ。
それから運ばれてきた料理。

みんな旨いって食べてたけど俺には味がさっぱりしなかった。

考えすぎて麻痺してた。


大丈夫だよな?って考えてた。

でも本人にも、誰にもこんな話できねー。


帰るときに

「あとから連絡する。」

って言った。


ちゃんとあの男のこと、言おうと思って。

お前に限っては大丈夫だと思う。

でも、万が一がこわい。


それから女等をバス停まで送って俺らもバスで帰った。

フジとはバス同じだけどあの2人とは違うから。


「で、壮陛くん。不安ですか??」

手をマイクのようにして話しかけてくるフジ。

「冗談。」

本心を隠して笑って言った。

「ま、そりゃそうだ。菜穂ちゃんはお前しか見てねーしな。」

手を引っ込めながら言うフジ。

こいつの予感は大体当たる。

照れくさく、何も言わないでいたら

「でもさ、あのミス北洋はどうにかしたほうがいいかもよ。」

「分かってる。」

フジを見らずに言った。


それから携帯に中学のときのツレのマサシから電話が来てフジと遊びに行った。

マサシの部屋に入ったとき、

「壮陛、真剣な話があるんだ。」

マサシが真剣が顔をして言う。

「んだよ。」

めんどくさそうにいつものように返した。

真剣な顔をするのは珍しくない。

いつもめんどくさい厄介な話を持ってくるときだけ。

でも今日のマサシの話は厄介とかのレベルじゃなくて…。


「皐がさ、会いたいって。」


俺は固まってしまった。

なんだよ、それ…って。