「じゃあ早速ですけど明日からお願いしていいかな??」
面接はたった5分で終わった。
店長の清田さんは25歳の男の人。
オシャレそうな髪型をしたいまどきの人だった。
オシャレな人じゃなきゃこんな雰囲気のいいお店はできないか。
そんなことを思いながら面接をしてた。
でもあっさり合格。
「はい、わかりました。」
「制服はちゃんとあるから制服のまま来てもかまわないから。てかむしろ制服で来て!」
店長は笑いながら言った。
どうやら制服の好きな人らしい。
「変態ですね~」
って笑いながら言うと
「制服はね、いくつになっても憧れるものなの!!」
って否定しなかった。
すごく話しやすくて、きさくな人だった。
他のスタッフにも紹介してくれてスタッフの人も優しそうだった。
というよりスタッフは店長の他に2人だけ。
厨房の人とホール担当の人だけだった。
「6時から10時はホールはこの3人だけだから。ま、俺はクリスティアーノさん来たらほとんど事務所こもるから2人かな。あとはこの厨房の山野さんね。あとクリスティアーノさんて長いから菜穂ちゃんでいいかな?」
そう言う店長にわたしは快く頷いた。
クリスティアーノだなんて外国人みたいで嫌なんだもん。
「よろしくお願いします。」
わたしは厨房の山野さんという人とホールの人に挨拶をした。
てか男しかいないし…。
そう思いながら。
「俺は厨房の山野です。よろしくね、菜穂ちゃん。いや~可愛いなぁ。フランス人形みたいだね!!」
「山野さん、セクハラだよ、セクハラ!!」
店長が言う。
自分だってさっき散々言ってたくせに…。
「せ、セクハラじゃないからねっ!!」
ってあわてて弁解する山野さんは少し太ってて優しそうな人だった。
多分30歳くらいかな。
その横でやり取りを笑う人。
「ホールの赤星です。よろしくね。」
その人は赤星さんといった。
わたしも山野さんに笑ってたけど赤星さんがあいさつしてくれたので2人に
「クリスティアーノ菜穂といいます。クリスでも菜穂でもなんでも呼んでください。よろしくお願いします。」
と挨拶をした。
2人とも優しそう。
店長もよさそうだし、環境に恵まれてるかもって思った。
話を聞くと山野さんは29歳で、赤星さんは高校3年だった。
赤星さんとは家も近くて中学の先輩。
高校1年と言うと店長がヨダレをふく仕草をみせてみんなでまた笑った。
そしてお客さんが来たので3人が仕事に戻ったのでわたしはまた挨拶をして店を出た。
明日からがすごく楽しみになった。
初めて働く。
それが楽しみなんていいことだよね、って思ってた。
帰ってパパとママとお兄ちゃんにカフェのこと、従業員さんのことを話したら(店長のおかしな発言、行動は除いて)頑張れって言ってくれた。
パパもママもわたしが働くことを応援してる。
本当に頑張ろうと思った。
部屋に戻って一応壮陛にメールを打っておいた。
事後報告だけど、いいよね??
《明日から家の近くのナイトカフェでバイトすることになったよ。》
時間は8時過ぎ。
まだバイト中らしく返事はなかった。
そして10時過ぎ、お風呂からあがったころに電話が来た。
もちろん壮陛から。
「まず言えって言ったよな?」
その口調は低く、怒ってるような感じだった。
わたしだって怒ってるのにその対応にムカついてきた。
言われっぱなしなんて嫌だ。
「言おうと思ったけど壮陛帰っちゃったじゃん。」
ミス北洋とね。
でもそれをいうとヤキモチとバレるからやめた。
「放課後じゃなくてもいっぱい時間あっただろ!?なんで朝とか休み時間いわねーんだよ。屋上もこねーし。なぁ、何怒ってるわけ?めんどくせーんだけど、そういうの。」
カチンときた。
怒ってる理由もわからないうえ、めんどくさい…。
「めんどくさいなら考えなきゃいいじゃん。別に怒ってないし!!じゃあわたしもう寝る!!」
すごい早口で言ったのがわかった。
「あっそ。じゃ、また。」
その後、プチッという不快な音がしてそしてまた不快なプープーという冷たい機械音が響いた。
耳の中に。
「もうっ!!!!」
一人しかいない部屋で叫んでフカフカの夏布団に携帯を投げつけた。
ポスッと音と同時に涙が溢れた。
うまくいかない、うまくいえない自分がもどかしくて。
「壮ちゃ~ん、ゴハン一緒食べ行こうよ~。」
朝から壮陛と一言も話してない。
目も合わせてない。
そんな昼休み、前の入り口から響いた甲高い声。
壮陛はガタッと席を立ち、無視するように後ろのドアから出て行ってた。
「ちょ、ちょ、ちょ、何なの!?あれ!!」
涼子ちゃんがただでさえ丸い目をさらに丸くしてわたしにつめよった。
腰を曲げてわたしをたたく仕草はテレビで見たおばさんみたい。
「さぁ…なんだろうね。」
そう言ってわたしは弁当箱を開いた。
鈴ちゃんは何も言わず傍観。
「てかあの女、絶対狙ってんじゃん!!彼女いるって知ってるのかな!?ちょっと待ってね!!情報確認。」
そう言って涼子ちゃんは携帯をピコピコといじり始めた。
わたしは下を向いて弁当を食べる。
壮陛、朝から目もあわせてくれない。
昨日喧嘩しちゃったししょうがないよね。
でもあんな風にミス北洋が来るとこわいよ。
もう、終わっちゃうんじゃないかって。
説明してもらって仲直りしたいんだ、わたし。
「はぁ!?」
いきなり涼子ちゃんが携帯を見て怒鳴った。
ドスのきいたこわい声。
「うるさいわね。何なわけ?」
不機嫌そうに鈴ちゃんが聞くと
「今、フジにメールで聞いたんだけど、あの女フジと壮陛とゴハン食べてるって。」
鈍器で頭を殴られた。
そんな感覚だった。
誰でもわかる。
ミス北洋は絶対壮陛に気があるって。
じゃないとあんな大胆に近づいたりしないよね。
しかもあんな美人に好かれる壮陛は嬉しいはず。
「いいの、気にしないで。それよりゴハン食べよ食べよ。」
わたしは笑って見せた。
「でもっ──…」
「涼子。菜穂は聞きたくないってことよ。空気読みなさい。」
そう言って鈴ちゃんは涼子ちゃんを止めた。
聞きたくないもあるし、壮陛のことをこれ以上考えたくない。
苦しいから。
「ごめん、菜穂ちん。わたし──…」
「ううん、涼子ちゃんありがとう!嬉しいよ、わたしのために。でもほんともう気にしなくていいから…。」
そう言ってみんなでゴハンを食べた。
会話の中心は昨日あってたドラマの話。
きっと2人とも壮陛との話を聞きたいはずだけどわたしが言うまで待っててくれてるのがわかった。
ありがとう、本当に。
心から感謝するけどもう少し待ってね…。
それがわたしの本心だった。
昼休みが終わって本鈴の前に壮陛が戻ってきた。
わたしを全くみらずガタッという音と同時に少しだけ視界に入る。
右側の肩がうずく。
壮陛のほうみたいから。
「で、おまえのバイト先はどんなとこなん?」
いきなり壮陛が話しかけてきた。
壮陛の方を見るとわたしの方に顔を向けてる。
「え?」
「え?ってなんだよ。バイト今日からなんだろ?どんなとこ?」
あまりに普通に話しかけられたから驚いた。
そしてわたしも普通を装って話した。
6時から10時までってこと、従業員はその時間帯は4人ってこと。
そして全員…男ってこと。
話し終えたときにちょうど本鈴が鳴って先生が入ってきた。
でも壮陛の顔はクールなまま。
「おまえ、次の休み時間ゆっくり話せ。」
って言って授業が始まる。
授業なんて身に入るわけがない。
普通に話しかけられたことにビックリして。
昨日怒ったんじゃなかったの??
壮陛、もしかしてわたしのバイトのこと気にしててくれたのかな??
「で?」
授業が終わるといきなり言う壮陛。
「で?って言われても…。もう最後だよ。今日からそこで…」
「その高3の奴はどこ校?」
赤星さん…どこ…だろう??
「さぁ?聞いてない。てかまともに話してないし!!」
「どんなやつ?外見は?」
なんでそんなに気にするのかわからないけどここは正直に
「外見…普通じゃない?くっきり二重だなぁってのは印象的だったけど。」
「へぇ。で?」
なんでこんな聞いてくるのかわからない。
「で?って何?!もうないよ。」
「行くの?」
「バイト?行くに決まってんじゃん。何!?そんな気になる??」
そう言うと目線はずして頭をかいた。
「おまえバカか。」
そう言って。
気になるってとっていいのだろうか…。
「バカじゃないもん。じゃあ聞くけど…──」
ミス北洋とのこと、聞こうと思った。
「木下のこと?」
先手を打たれた。
わたしが気にしてたこと気付いてんじゃん…。
それに頷くと
「やっぱそれか、おまえがご機嫌ななめなのは。」
そう言って笑った。
ムカッとして唇をとがらせたら
「バイトの指導係があの人で、入り口わかんねーから教えてくれたり…んーなんか色々!!なんもねーよ。一緒にバイトに行ってるだけだし会話もほとんどしてねーよ。」
そう言いながら笑う壮陛。
「なんで…そんな笑うの??」
「おまえがおもしれーから。」
こんなに悩んだのに。
あんなに泣いたのに。
「笑わないでよ、バカ…。」
わたしまでおかしくなってきちゃった。
ううん、おかしいんじゃなくて嬉しいんだ。
何もないって言ってくれて、話してないって言ってくれて。
ホッとしたんだ。
壮陛はわたしの心配もしてくれたし。
「んなことよりおまえ、終わったら連絡しろよ。」
そんな話してたらいつの間にか終わってた休み時間。
先生が入ってきた。
その日、終わると壮陛はまたミス北洋と一緒に出て行った。
もうあの光景みても心が全く痛くないとはいえないけど、昨日より全然楽。
壮陛とちゃんと話してれば昨日泣かずに済んだのに、なんて思えるくらい心が軽かった。
そしてバイトまで時間があったから壮陛とのことを2人に全部話した。
涼子ちゃんは
「なんかあの女が手出したらわたしがつぶす!!」
とか外見とは似合わないこと言ってた。
「あそこから、1番、2番…って数えてあそこが4番ね。」
丁寧に教えてくれるのは店長の清田さん。
制服でそのまま行ったときの反応が
「おぉ~、女子高生!!」
だった。
25歳となると女子高生と絡むことがないから嬉しいとか言ってた…。
変態だ。
でもこうやって初めて来たわたしの気を紛らわせてるのかもしれない。
「じゃ、早速だけどこれでテーブル拭いてきてね。」
「はい。」
そう言ってわたしはテーブルを拭きに行った。
テーブルは全部で15個程。
全部埋まることはないだろうって言ってた。
そんな忙しいわけじゃないらしい。
拭いてたらキャンドルを持って赤星さんが来た。
「運ぶだけだから簡単だから。ゆっくり覚えてね。」
爽やかな笑顔を見せて去っていく。
仮面ライダー系に出てそうな人だなぁ。
そう思いながらテーブルを拭き終わった。
初めてのバイトはほんとに運んだり、引いたり、注文取ったりの繰り返しで、注文は手書きだから書けば済むし、以外と覚える内容が少なかった。
赤星さんと暇なときはコソコソ話したりしてて、すごく時間がたつのが早かった。
赤星さんはわたしの高校から徒歩10分程の隣の高校だった。
家も近いし、高校も近い。
「すごい偶然ですよね。」
って感じで盛り上がった。
赤星さんはこの爽やかな外見に優しい人ですごく高感がもてた。
そして10時くらいに大学生という男の人と女の人が来たからわたしたちはあがった。
「近いし、危ないから送るよ。」
と赤星さんに言われて。
店からわたしの家まで歩いて5分程。
歩いて来たわたしだけど赤星さんはバイクだった。
「通りがかりだし、後ろ乗って。」
そう言ってヘルメットをわたしに渡してきた。
「そんないいですよ、申し訳ないし!!」
ヘルメットを手に取ったのに遠慮する変なわたし。
「1人で夜道歩かせるわけにはいかんしね。1分で着くって、これなら。はい、ヘルメットしめて乗ってください。」
大きなバイク。
初めてバイクに乗る。
どうやって乗るの??
そのへんからわからなかったけど見たことはあるからなんとなく想像はついた。
赤星さんも自分のヘルメットをしてわたしを待ってる。
「ほら、乗って乗って。」
これって浮気じゃないよね。
壮陛がミス北洋と一緒にバイト先行くのと一緒だよね?
そう考えてわたしは甘えることにした。
夜道はこわいし、ちょっとバイクに乗ってみたかった。
「おじゃまします…。」
おじゃましますと言ったあと後悔した。
プッと笑って
「おじゃましてください。」
って赤星さんが言った。
わたしの前に座る赤星さん。
「どこ掴めばいいんですか??わたしバイク初めてで…。」
そしてスカートがめくれないか心配だった。
「後ろでも俺でも好きなとこをどうぞ。落ちないようにね~!!」
そう言うとエンジンがかかった。
キュキュキュという音で。
そして動くとき、こわくて赤星さんにしがみついてた。