ったく。
こいつも被害妄想が激しいんだな…。
自分に自信持てばいいのに…って俺もか。
「修二のやつ、明日ブッ飛ばす。」
菜穂を抱きしめながら言うと暴れながら菜穂が訴えてきた。
「だ、ダメ!!口止めされてるから!!言っちゃダメだよ!!」
胸をポンポン叩きながら言う。
そんなに修二をかばいたいわけだ。
ムーっとしてくる自分がわかった。
「気が向いたら言わない。」
そう言うとまだ暴れて
「ダメダメ!!絶対言わないでよ~!!」
だっておまえ、あいつの言葉で沈んでたんじゃん。
ったく、人がよすぎるんだから…。
「はいはい。わかった。」
気が進まないけど気の抜けた返事をしといた。
「絶対だよ?言ったら……」
「言ったら?」
「言ったら…──ちょっと嫌いになる。」
グサリと心が痛くなった。
それで抱きしめてた手を離した。
それと同時に菜穂も離す。
「てめ、そんくらいで嫌いになるなよ。だいたい口割ったのおまえじゃんか。」
嫌いになるなんて言葉、絶対聞きたくないのに。
言い合いになってしまった。
「そ、それはそうだけど…。」
そう言ってまた俯く。
なんか俺が悪いみたいじゃん…。
また眉落として泣きそうになってるし。
「あーわかったわかった。言わねーから!もう泣くな。」
そう言って髪の毛をクシャクシャっとした。
長い髪が揺れてボサボサになってその姿にプッと笑った。
菜穂は髪をキレイに戻しながら
「約束だよ?絶対だよ?」
って念を押す。
嫌われたくないしな…。
泣かれたくないしな…。
「わかったって言ってんじゃん。しつけーな。」
そう言って自転車の方に向かった。
そろそろ家に戻さねーとヤバイだろうし。
親が出てきたりしたらまずい。
「帰るの?」
寂しそうな顔をして聞く菜穂。
帰りたくなくなるけど帰らないとヤバイのは…
「帰るのはお前。」
そう言ってチャリにまたがって
「ほら早く家入れ。」
ってシッシッとした。
「もぉ~、邪魔者みたいな扱いして…。」
ふてくされて頬を膨らましながら家の玄関に向かって行く。
本当は俺だってもう少し話したいけどな。
「じゃ、また明日な。」
「ね、約束しない??」
いきなり菜穂が言い出す。
「だから言わねーって言ってんじゃん。しつけーな…。」
言わないってのを言ってるって思ったら
「違うって!あの…その……別れるときは必ず…キスするって…。」
恥ずかしそうに下を見ながら言う菜穂。
「え?」
驚いて言うと菜穂は顔をあげて笑った。
「冗談♪ごめん、ごめん。じゃ、帰るね。」
小さい声で家に入ろうとする菜穂。
その手を引いてチャリにまたがりながら引き寄せ、そしてキスをした。
ちょっと強引だったかな??
でも嬉しかったから。
「約束、な。」
俺だってキスしてぇし。
願ってもないチャンスじゃん。
そんなキスに菜穂は嬉しそうな顔をして
「また、あしたね!!」
ってすっげー笑顔で入って行った。
来てよかった。
顔見れてよかった。
修二が原因とは思ってたけどこういうこととはな…。
でもこんな俺を受け止める菜穂、趣味は悪いって思うけど離すつもりはないんだ。
どんなことがあっても。
昨日のこと、思い出すだけで顔が真っ赤になっちゃう…。
なんであんな大胆なこと、いっぱい出来たんだろう。
壮陛に抱きついたり、キスしたり…約束までこじつけたり。
でも絶対嫌われた、フラれるって思ってたからほんとによかった。
つーか何であんな怒ってたんだろう、結局。
てっきりフジくんがわたしに教えたって言ったと思ったのに…。
涼子ちゃんとか鈴ちゃんに相談しまくって申し訳なかったな。
でも涼子ちゃんがフジくんと連絡先交換できたっていうの聞けたから相談しに行ってよかったかも。
わたしたちもうまくいったし、涼子ちゃんもうまくいけばいいのに。
今日からまた新学期。
9月というのに朝から暑いしセミも鳴いてる。
でもまた壮陛と毎日会える学校に行ける。
かなりご機嫌で学校に向かった。
テスト前だけど…。
でもこの新学期…怒涛の2学期になるってことをまだ知らなかった。
学校につくと涼子ちゃんも鈴ちゃんも来てた。
ちゃんと昨日のことは報告してたから涼子ちゃんはニヤニヤして
「おはよう♪よかったね、仲直り。」
って言った。
涼子ちゃんも実は花火のとき様子が違うわたしを心配してたって言うから驚きだったんだよねぇ。
「ごめんね…昨日は余計な心配かけちゃって…。」
「そんなことより菜穂、さっき去年のミス北洋の先輩が涼風探しにきたわよ。」
鈴ちゃんがサラッと言った。
ミス北洋…ってあのすっごい美人で日本人なのにハーフみたいに彫りが深い人だよね??
なんで壮陛を…。
「なんの用か聞いたら言ってくれなかったけど。新学期そうそう何かしらね。」
鈴ちゃんはわたしの心が読めるかのように答えた。
「そんな不安そうな顔しなくても大丈夫って。涼風は菜穂ちゃん以外見ないってわたし断言できるから。ミス北洋に負けてないし!!」
不安そうな顔?
わたしは手で自分の顔を抑えてみた。
でもわかんなくって
「不安そうな顔、してた??」
そう言うと真顔で頷く2人…。
恥ずかしくなった。
そのとき廊下から聞こえてくる歓声。
3人同時に
「「「来た。」」」
って言った。
そう、歓声はいつものこと。
壮陛のおでまし。
最近は文句は言わず、シカトして教室に入ってくる。
だんだんと言葉が聞こえてきた。
「涼風くん久しぶり~♪今日遊び行こうよ~。カラオケとか~。」
って猫なで声が聞こえる。
ムカってする自分を抑えながら教室の入り口を見た。
その瞬間壮陛が入ってきてわたしと目が合った。
昨日のこと、思い出しちゃって目をちょっと逸らした。
涼子ちゃんと鈴ちゃんの方を見たら涼子ちゃんがニヤけながら
「照れちゃって~♪あ、こっち来たよ。」
って冷やかしてきた。
いつもなら普通なのに昨日あんな大胆なこと言ったから恥ずかしいんだもん。
何話そう…。
そう思ったら後ろから声がした。
「おい、お前呼んでる。」
壮陛の声。
目線は涼子ちゃん。
「え?わたしを?誰が??」
挨拶もなしに会話が進む2人。
「修二。」
そう言うと涼子ちゃんはガタッと立ち上がって教室の外に出て行った。
わたしは壮陛を見て
「おはよう。」
そう言うと
「おう。」
と言った。
壮陛はおはようって返すタイプじゃないからね。
「涼風、あんたミス北洋と知り合いなの?」
鈴ちゃんが口を開いた。
知り合いじゃないって言って!!お願い!!
すがるような気持ちだった。
壮陛は鈴ちゃんを見て考えるように上を見ながら
「ミス北洋?そんなんあんの?知らねー。」
って言った。
「さっき呼びにきたわよ?あんたを。また来るって言ってたけど。」
そう言うと小さく頷きながら
「ふーん、わかった。」
って言いながら机に向かってった。
2人のときはいっぱいわたしを見て話してくれるけど教室じゃいつもこんなもんなんだよね…。
寂しいけど我慢。
いつもはそう思ってた。
でも、今日は不安が1つ増えちゃった。
ミス北洋は一体何の用なの??
その瞬間チャイムが鳴ってわたしは立ち上がって机に向かった。
もちろん壮陛の隣。
座った瞬間壮陛は
「あ、俺明後日からバイト始めるから。昨日言い忘れてた。」
いきなり言った。
ガヤガヤした教室。
聞いてる人はいないと思う。
「え、バイト??どこで??」
「この近くのファミレス。ジョイってあるじゃん、あそこ。」
ジョイは学校の近くのチェーン店。
うちの学校はバイトは何も言われないから近くでしていいんだけど…相談くらいしてほしかったな。
でも決まったってことだし今さらいってウザイって言われたくないから
「そっか。頑張ってね。わたしもしたいな~、バイト。」
そう呟いたら担任が来た。
「お前、すんなよ。バイトとか。ま、親が許可しないんじゃねぇ??」
笑うように言う壮陛。
確かにそうだけどなんでしちゃいけないんだよ…。
言い返そうとしたら担任が口を開いたから何も言わなかった。
担任は明日から2日間のテストのことを淡々と話し始めてた。
午前中で今日は終わり。
帰るときになってもミス北洋は現れなかった。
一応テスト前ってことで今日は別々に帰ることにした。
壮陛とはバスが違うから。
帰って勉強もしなきゃ怒られちゃうし。
帰って部屋で勉強してたけどやっぱりミス北洋のことが頭から離れなかった。
どうして元カノといい、ミス北洋といい、キレイな人ばっかりなんだろ。
朝話しかけてる子らだって可愛い子多いし。
心が痛くなってきた。
勉強なんか進むわけがない。
机の上のめくられる事のない数学の教科書が目の前にあった。
何度も壮陛に電話してみようかと思った。
でも壮陛、実は1学期すごく点数悪くて担任に2学期の実力テストで全教科50点以上取らなきゃ追試って言われてたから勉強してるはず。
邪魔になりたくないから自粛した。
明日聞けばいい。
明日まで我慢すればいい。
考えないように、考えないようにして夕食を迎えた。
「菜穂ちゃん、テスト勉強ははかどってる??」
ママが夕食の天ぷらをつつきながら聞いてきた。
また不安な顔つきが取れないのかな…
「うん、なんとか…」
濁すようにしてこの話題を避けようとしてた。
「あ、パパ、わたしバイトとかしちゃダメ??」
別に壮陛と同じところってわけじゃない。
ただ、外で働くってのに興味を持った。
壮陛がするならわたしもやってみたいから。
パパの顔は硬直してた。
ダメってことだよね…。
驚きで口が動いてなかった。
外人の顔だし、まるで腹話術の人形みたい。
「菜穂、なんでバイトしたいの?」
パパの変わりに隣のお兄ちゃんが聞いてくれた。
壮陛がするからなんて言えず一般的な言葉で答えた。
「だって…勉強になるし。お金、自分で稼いでみたいし。いつまでも甘えてたくないの。」
下を向きながら言った。
ダメってわかってるから。
「菜穂ちゃん、大変なのよ?バイトって…。お勉強だって中途半端になっちゃうかもしれないのよ??遊びにだって行けないのよ??」
遊びにって…。
門限7時のくせに…。
どっちにしろ行けないし。
「いいじゃないか。菜穂、やってみなさい。でも家から近いところってのが条件だぞ。よいな?時間は9時か10時までだそ。」
な、なんとパパから信じられない言葉をもらった。
バイトしていいだなんて…。
しかも9時か10時までしていいだなんて…。
信じられなくて目を大きくあけて言葉が出なかった。
「わかったのか??」
パパの押しの言葉にやっと反応して
「わかった!!ありがとう!パパ!!」
そう言うとパパはニコニコしていた。
ママは不安そうな顔をしてたけど…。
家の近くってことは壮陛とは一緒には出来ない。
でも…ズルい考えだけどバイトって言って9時か10時まで遊べるってこと。
夜遊ぶってことは夏祭りしかなくって夢だった。
いつも明るいうちに帰ってたから。