キーンコーンカーンコーン…
義務教育最後のチャイムが響く。
やっと…やっと卒業できるんだ!!
屋上でゆっくりと校庭を見下ろす。
校庭では、もう卒業したクラスメート達が別れをおしんで泣いている。
きっと、笑っているのは私だけだ。
中学校なんて…全く楽しくなかった。
人より少し勉強ができた私を、お母さんは百合園中学に入学させた。
小学校の友達とは、みんな離れてしまった。
私はいきなり会った人ばかりの百合園中学に馴染めるはずもなく、友達なんてできなかった。
そんな私だったが、確か中1の時。
知らない男の子に告白された。
結構かっこいい人だったけど、断った。
前のような失敗を繰り返したくなかったから…。
何度みても、この屋上は殺風景だ。
一番右端にあるベンチ以外には何もない。
でも、このベンチがこの中学校で一番好きな場所だ。
スクールバックから彫刻刀を取り出し、ベンチに自分の名前と一言。
「櫻井果鈴 高校行ったら、変わります」
ゆっくりと目をとじる。
高校行ったら、変わる。
絶対変わる。
友達もつくる。
彼氏は…まだいいや。
目をあけると、さっき彫ったばかりの字の上に一枚の桜の花びらが落ちていた。
花びらを手にのせて、じっと見つめる。
変われるよね。
私が行く高校は、如月学園というところ。
実は…今まで聞いたことがない名前の高校だ。
でも、百合園の人が誰もいかないと知ってすぐに決めた。
新しい生活に、今の同級生がいてはやっかいだ。
桜の花びらを彫刻刀と一緒にスクールバックの中にしまい、ベンチを立った。
さよなら、屋上。
軽く手をふって、階段をかけおりた。
屋上から一階まで一気にかけおりると、さすがに喉がかわいた。
校内の自動販売機にかけより、いつものようにいちご牛乳を買う。
このいちご牛乳も、屋上のベンチと同じくらい好きなものだ。
卒業したから、もう飲めなくなると思うと…少し寂しい。
いちご牛乳にストローをさしていると、ヒソヒソと声が聞こえてきた。
「あの人だよ…櫻井さん」
「話しかけてみる?」
「えぇ~どうしよう?」
「てかあんな人同級生にいたっけ?」
影が薄くて悪かったな。
いちご牛乳を飲みながら、心の中で言い返す。
「あのぉ…櫻井さんですか?」
話しかけてきた。顔を見たが、誰か分からない。まぁ、休み時間に一回見たような気も…まぁいいか。
「…そうですけど…」
答えると、女の子達がキャーという声をあげて一言、
「すごいですね!!がんばってください!!」
と言って廊下を走っていった。
何なんだろ…。
校庭にでると、屋上から見ていた時より多くの生徒が泣いていた。
みんな、中学校に未練かなにかあるのか。
もう、帰ろうかな…
まわりを見渡すと、掲示板に新しい高校の紹介が張り出されていた。
近寄ってみたけど、如月学園の紹介はない…
「…あ。」
あった。一番目立たない、端のほうに。
如月学園(きらさぎがくえん)
元男子校ですが、去年から共学になりました。女子も歓迎いたします。共学になったにも関わらず、今現在女子が一人しか入っていません…
「え…」
如月学園って元男子高なの?女子が一人しかいない…その一人って…
「私!!?」
思わず声をあげてしまった。
まわりが男子ばっかり!?嫌だ!!
「そんなぁ…」
私…高校生活どうなっちゃうの?
次の日。
今日は休みだ。
そして…明日からは高校生になる。
私は大きなため息をついた。
私以外全員男子なんて…。友達なんて、できないよ。
コンコンッ
「果鈴、入るわよ」
「はーい」
返事をすると、お母さんが入ってきた。
「如月学園の制服と生徒手帳が届いたわよ。今まで男子ばかりだったから、特注でつくってもらったから。」
ベットの上に制服をおくと、お母さんは部屋をでていった。
特注か…どんな制服だろう?
「あ…かわいい」
すごくかわいい!!制服がかわいいと人気がある高校の制服なんかより、ずっとかわいい。
ブレザーで、スカートは結構短い。このスカート…ギリギリじゃないか?まぁかわいいからいいか…。
制服をおき、生徒手帳をみた。大きく「生徒手帳」と書かれた下に、小さく「女」と書かれている。
きっとこれを持っているのは私だけだ。
パラパラと開くと、普通の高校ではあり得ないことばかり書かれていた。
何をしても、何を持ってきても自由。
授業はサボっても大丈夫―
すごい校則だ。
まぁ楽そうでいいが…。
それらを見終わると、暇になった。外にでも出掛けるか。
玄関から外にでると、さっき見たばかりの制服の男子バージョンを着た人が、自転車で通りすぎていった。
如月学園の人だ。明るい茶髪。
その人は、家の前に何かを落としたことに気づかず、そのまま走り去っていった。
「あ…あの!!」
叫んだけど、遅かった。
拾ってみると、生徒手帳だ。こんなもの…落としていいのか?
開けてみると、1ページ目に名前が書いてあった。
「北神…祐…」
きたがみゆう。
1年3組らしい。
まぁ、明日、会えたら渡そう。
そう思ってズボンのポケットにいれた。
「果鈴ー!!遅刻するよ!?」
お母さんの声で飛び起きた。遅刻!!?今、何時?
「もう7時じゃん!!」
慌てて飛び起きて、制服を着る。
「いってきます!!」
バス停まで猛ダッシュ。間に合う…!?ギリギリか!!?
「間に合った!!」
7時に起きて、7時15分のバスに間に合った。本当、ギリギリだけど…。息を整えてまわりを見ると、視線が集まっている。
な…何?
あ、分かった。制服とスクールバックだ。
制服のスカートが短いため、結構目立つ。
しかもこのスクールバックは、如月学園規定のものだ。女子が持っているのは不自然だろう。
ふぅ…とため息をついて、空いている席に座った。
ここから、如月港というところまでバスにのる。
如月港から如月学園までは、歩いて10分程度だ。
その時、いきなり眠気が襲ってきた。バスに揺られていると、眠くなってしまう。
私はそのまま、眠りにおちてしまった。
「…おい…」
「……?」
体を揺らされ、ゆっくりと目をあけると…
「あ…!!」
如月学園の制服を着た、昨日の人がたっていた。近くから見ると、すごい美形だ。
「…あ…あの…」
「お前、如月学園の生徒だろ。もう如月港つくぞ。」
「…え!!?」
慌てて立とうとすると、男の子が
「まだだよ。ったく、気が早えな。」
と言って笑った。美形は、笑うともっと美形になるんだな…なんて思って見つめた。胸がドキドキいうのが、すごくうるさかった。
「次は如月港、如月港です」
バスの中に声が響き、ドアがあいた。はっと気づくと、もう男の子はいなくなっていた。
「…先に出たのかな」
バスをでたが、男の子の姿はもう見えなくなっていた。
私の心の中は、さっき会ったばかりの男の子でいっぱいだった。
「…一目惚れ…かな」
ドキドキする胸に、一言つぶやいた。
15分後、如月学園についた。凄く立派で、敷地が広いのに驚いた。
こんな立派な高校に行けると思うと少し嬉しかったが、一つ、恐ろしく嫌なものがあった。
それは…
校門の前でいるだけで、視線が異様に集まってくること。
やっぱり、男子の中に女子一人というのは目立つようだ。
視線が嫌で、逃げるように校舎に入った。
「あれ…今年はいった女子だよ」
「うそ、めっちゃ可愛いんですけど!!」
何組かを確認するため掲示板に近寄ると、ヒソヒソが大きく聞こえた。
はぁ…いつもは可愛いって言われたら嬉しいんだけど。
何か喜べない自分がいる。
「あれぇ~、女子~?」
声にビクッとして振り返ると、背がとても高い男の人が立っていた。
髪は茶髪に金色のメッシュで、制服を着崩している。絵に書いたようなヤンキーだ。多分3年生だろう。
「うわ、可愛い~今からデート行かね?」
そう言って、私の手首を掴んだ。
いやいや、行きませんから。てか誰だよ。
「いや…いいです」
「何で、いいじゃん!!早く行こ!!」
「行かないですっ」
強引に手首をひっぱられてよろける。誰だよ~しつこいな。てか、誰か助けてよ!!見てないでさぁ。
その時。
「先輩!!」
声のほうを振り向くと…さっきの男の子!!
「おぅ、北神か。」
手首を掴んだまま、ヤンキーが答える。
男の子は私をチラリと見て、ヤンキーに言った。
「先輩、ナンパっすか?何か怖がってるみたいだからやめといてあげてください♪」
「え~でもめっちゃ可愛いんだょ!!」
そう言ってヤンキーが抱きついてきた。
うぁ~~~~!!
じたばたしたが、力が強くて離れられない。
そんな私を見て、男の子はクスクス笑った。
「確かに可愛いですね。でもナンパばっかりしてると葵先輩に怒られちゃいますよ?」
そう言ったとたん、ヤンキーは真っ青になって手首をはなし、あわててどこかへ走っていった。
何だったんだろう…。
あ、お礼!!
「あっあの!!ありが…」
振り向くと、男の子はもういなかった。
すぐにどこかに行っちゃう人なんだな…。
まわりを見渡すと、こっちを見ている男子が何人もいた。
「ナンパされてたよ…」
「宗也先輩おとすとか、スゲー…」
ヒソヒソと話が聞こえる。やばっ、入学早々目立っちゃったよ。
まぁ男子の中に女子一人の時点で目立ってるか…
そんなことを思いながら、クラス表を見た。
1年3組か。
「…1年3組?」
確か、前に北神君?がおとした生徒手帳にかいてあったのも1年3組だ。
慌てて探してみると、やっぱりそうだ。
「一緒のクラス…」
うん、ついてる!!っていうか、よく考えたら自分の生徒手帳に書いてあるじゃん。
わざわざ見にこなくてよかったかも。
北神君の生徒手帳を開けて、フルネームを調べる。
北神、祐。
北神、祐……
忘れないように、何度も何度も心で唱えた。
1年3組のドアの前。
緊張するなぁ…
でも入らないと!!
ガラッ
勢いよくあけると、想像どおり男子ばっかの教室。暑苦しい…。
「かわい~!!」
大声がして、抱きつかれた。また!?次は誰!?
振り向くと、かわいい感じの美少年。前髪をピンであげていて、女装が似合いそうな人。
「おい、中村!!怖がってるだろ、やめてやれ。」
そこに助けがはいった。黒髪でロン毛のイケメンだ。目の下にほくろがあるのが大人っぽい。とか思ってたら、いきなり高い声がとんできた。
「きゃあ、かーわいい!!」
誰?女の子?
よかった、私以外にも女子いるじゃん。
「あ~、騙されてるよぉ」
さっきいきなり抱きついてきた男の子が言った。
「…え?」
「そいつ男。」
「えぇ!?」
この子…女の子じゃないの!!?確かに…ズボンはいてる。
「でも心は乙女だからね!!私、雪原学(ゆきはらまなぶ)。マナって呼んでね!!」
「さっきはいきなり抱きついてごめんね♪中村新(なかむらあらた)でっす!!」
「俺は夜月伊吹(よるつきいぶき)。まぁよろしく。」
マナ、中村君、夜月君…。
「君の名前は?」
「…あ、私櫻井果鈴です」
名前を言ったとたん、担任が入ってきたため会話中断。
なんか…面白そうなクラスかも。
1時限目の後の休み時間。
私は1年3組を見渡していた。
うっかり忘れていたのだが、昨日北神君の生徒手帳を拾っているのだ。わたさないと、きっと困るだろう。
「果鈴ちゃあん!!」
「わっ!!」
再び中村君が抱きついてきた。てか…いつの間にか名前でよばれてるし。
「何キョロキョロしてんの?」
「あ…えっと、このクラスに北神君っているよね?」
「あ~、祐?前、同じ学校だった奴だよ。今日はまだ一回も見てないな。」
「そっかぁ…」
伝言板の前にはいたんだけどな。
サボって帰ったのかな…
「果鈴ちゃんっ」
「マナ!!」
マナが長い髪を揺らしながらはしってきた。
「すごいねぇ、学年中で噂になってるよ。果鈴ちゃんが可愛いって!!」
「え?何いってるの、そんな訳ないよ。私可愛くないし…」
「だって、果鈴ちゃんを見ようとしてる男子いっぱいいるよ?」
マナが指をさしたほうを見ると、確かに男子がいっぱい。
「おぉ~果鈴ちゃん大人気だね♪」
中村君がなぜか嬉しそうに言う。
「まぁ確かに見た目は悪くない。しかし、こんなに人気だとは…」
夜月君が何か考えながらつぶやく。
本当…男子ばっか。
「あの!!」
振り向くと、たくさんの男子の中の1人が私にむかって叫んでいた。
「名前教えてくださいっ」
名前?どうしよう…
その時、中村君が私と男子達の間にはいって言った。
「名前、櫻井果鈴だよ!!あだ名はリンリンだよ♪」
リ…リンリン?
なにそれ、あだ名?
パンダみたいなあだ名だなぁ…てかダサい。中村君ってネーミングセンスないかも。
「ねっ、リンリン?」
「えっ、私リンリンなんて…」
「リンリーン!!」
答える前に、もうみんなはこのダサいあだ名を叫んでいた。
「リンリン、かわいー!!」
「彼氏とかいる?」
あぁ、うるさい。
こんなのが毎日続いたらどうしよう…
入学から2週間後。
男子というのは、女子に比べてさっぱりしていて助かった。
最初のほうは騒がれたが、今は前より騒がれなくなった。
でも、2週間北神君は学校に来なかった。
そんなある日。
「リンリーン!!」
「中村君。どうしたの?」
「リンリンにお願いがあるんだぁ」
なんだろう。中村君からお願いなんて、少し珍しいかも。
「リンリン、お願い!!軽音部のスプリングコンサートにでて!」
「…え!?」
スプリングコンサート?なんですか、それ。というか、何で軽音部の手伝いを?何で私が?
「…あ、スプリングコンサート知らない?」
「うん、全く。」
「如月高校の軽音部ってね、いつも新入生のためにスプリングコンサートをひらいてるんだって。俺の兄貴が軽音部なんだけど、どうしてもリンリンにゲストとしてでてほしいらしいんだぁ。」
「…ふーん」
軽音部がね…。てか、何で私なんだろ?
「そりゃ、リンリンが今年はいった初めての女子だからだよ!!」
「…中村君、心よむのやめよ」
どうしよう…。私、楽器なんて全然ひけないよ?歌なら自信あるけど。でも、人前で歌うなんて恥ずかしいしな…。
迷っていると、中村君が顔を近づけてきた。
「!?…中村君?」
「リンリン、お願いだよぉ…超困ってるんだって」
近くで見る中村君の顔が、少し悲しそうに見える。断りにくいなぁ…。
「…分かった。私、やるよ!!」
「本当!!?」
中村君の表情が一気に明るくなった。
「ありがとう!!じゃあリンリン、放課後一緒に軽音部にいこうね♪」
「うん。」
にこっと笑顔をつくると、中村君の顔が真っ赤になった。
あわてて顔をはなすと、じゃあねっと言って教室をでていった。
照れたのかな?かわいい。
放課後、私は中村君と軽音部の部室に行った。
「リンリンには、歌を歌ってもらいたいんだって。リンリン、歌上手そうだもんねぇ」
「えっ…そうかな?」
「うん!!上手でしょ?」
「どうだろ…でも、歌は大好きだよっ」
「やっぱり!!…あ、ここが部室だよ。」
中村君がドアをあけると、中から歓声があがった。
「新ぁああぁあ!!」
大声をだして、1人の男の人が中村君に抱きついた。だ…誰?
「兄貴、リンリン困ってる!!」
「おっと、悪ぃ♪」
男の人が中村君から離れ、私のほうを向いた。…わぁ、中村君にそっくり!!でも、中村君のほうが少し目が大きいかな。
「ハジメマシテ♪中村新の兄貴の中村明(なかむらあきら)ですっ!!」
「は、はじめましてっ!!櫻井果鈴です。」
「噂どおりかわいい子だね!!さ、入って入って♪」
「はっはいっ」
緊張しながらはいると、中には3人の人がいた。みんなイケメンだぁ…
「あ、この子?かわい~!!」
その中でも一番チャラそうな人が私のほうに歩みよってきた。
…ん?
「…お兄さんいらっしゃいますよね?」
「え?うん、いるよ兄貴。すごいねぇ、よく知ってるね」
「あ…いえ」
だってこの人、入学した時にナンパしてきた男にそっくりなんだもん。やっぱり兄弟か。
「おーい、みんな!!ちょっとこっちこい!!」
中村先輩が声をかけると、部室のおくのほうにいた残りの2人もこっちにきた。でも、しぶしぶという感じだ。