「で、美樹はどうしたいんだよ?」

俺には慰めの言葉をかけることができなかった。
翼のことはひどいと思うけど、美樹も美樹だと思ったからだ。

言葉より先に体を許すなんて、「私は安い女です」って言ってるようなもんだろ。

「あた…し…あたしは…」
弱々しい顔で一点を見つめて、でも真剣に考える美樹。
何を考えることがあるのか、俺には理解しきれない。
美樹が答えを出す前に、つい口を挟んでしまった。

「あのなぁ、言っとくけど、翼はどうせ同じことを繰り返すぞ?
問い詰められて更正するとは思えない。
逆ギレするかもしれない。
浮気したり遊んでるような奴は大抵そんなもんだよ。
紹介した俺にも責任はあるし申し訳ないと思ってる。だからこそ、美樹にはもう深追いして傷ついてほしくない。
他にもっといい奴がいるって。」

一気に言葉を吐き出してみて、驚いた。
“傷ついてほしくない”なんて思ってる自分にだ。
俺は多分、母親の愛情を求めていた小さい頃の自分と美樹を重ねていた。
例えどんな奴だろうと、俺の母親はあの女ただ一人だった。
小さいときは、俺が大人しくしてれば優しくしてくれるんじゃないかとか、明日は一緒にいてくれるんじゃないかとか、期待していた。
でも、その期待もすぐに諦めに変わったんだ。
肉親でさえそんなもん。
遊びたい盛りの男なんて、美樹が何言ったって変わる訳ない。

美樹はマスカラがボロボロに落ちた目を見開いて俺を見ている。
気まずい沈黙に、コップの氷がカタリと鳴るのが聞こえた。