♪~♪~♪~

携帯が鳴り響き、朝だと思って飛び起きた。
でも、窓の外はまだ暗かった。
それに毎朝鳴る着信音とは別の曲が鳴っている。

(なんだよ…。)

軽く舌打ちをしつつ、電話を耳に当てる。

「何だよ。」

寝起きの不機嫌さを隠しきれずにぶっきらぼうな声で聞いた。
電話の向こうは、いくら待っても無言だった。

切れてるのかと思ってディスプレイを見ると
「美樹」という名前と、通話時間が表示されていた。

「おーい、美樹、どうしたぁ?」

「…ぐすんっ」

かすかに鼻をすする音が聞こえた。

「何、お前泣いんの?」

「…泣いてねーよ。」

返ってきた声は言葉と裏腹に弱々しい声だ。

「泣いてんだろ。どうしたんだよ。」

「…別に。」

(面倒くさっ…)

さっき格好つけて、いつでも相談しろみたいな事を言ってしまったのを、瞬時に後悔した。
俺はそこまでお人よしじゃない。
電話してきたくせに何も話そうとしないような奴、構ってやるつもりはない。

「じゃぁかけてくんなよ。
相談には乗るって言ったけど、暇電に付き合うほど暇じゃねぇよ。」

寝起きの不機嫌さも手伝って今俺はなかなかにキツい事を言ったんじゃないかと思ったが、相手は美樹だし大丈夫だろう、と思い直した。
いつも美樹なら倍のキツさで言い返して来る。

「…じゃぁ…相談に乗って…下さい。」

俺は予想外の返答に戸惑った。
そういえば別れ際、声が震えていた事を思い出す。
ただごとじゃないのかもしれない。
電話を耳にはさんで、スウェットのズボンを脱ぐ。

「お前どこにいんの?」

「…駅前。」

答えを聞きながらクローゼットからジーンズを取り出した。

「じゃぁそこのファミレスにいろ。
20分くらいで行くから。」

分かった、と言われたのを確認して電話を切り、上のスウェットも着替えた。

(…ったく、何で俺が…。)

そう思ったのも事実だが、言ってしまった以上責任は取らなきゃいけない。
スニーカーを履いて外に出た。
外の空気はひんやりと冷たく、街灯がふんわりとした光を放っていた。