おやじは、3人で暮らしたでかい家を売り払った。

「これからはあんなでかい家必要ないからな。」

俺も同感だった。
でもそれにはもう一個意味があったんだ。
おやじは、会社が大きくなる事を一番に望んでいた。
おやじとは、22歳までは好きな事をしていいけど、23になったらおやじの会社に入る、という約束を交わしていた。
でもそこはおやじ。
22歳までにしていた事がどんなことであっても成功して、それをやり続けたかったら会社を継ぐ必要はない、なんていう但し書きつきだった。
それくらい俺を信頼してくれてたんだ。

そして、俺がもし会社を継ぐことになった時に恥ずかしくないように、会社を出来るだけ成長させようとしていた。
そのために、北海道に支社を作ることにしたという。
おやじは本社を信頼できる人に任せて、北海道に行くということだった。
もちろん俺は高校進学を控えていたから、俺一人地元に残ることになる。
それでも俺には反対する理由がなかった。
あのでかい家にずっと一人で住んでるようなもんだったし、一人で暮らすことに抵抗はなかった。
それに、俺の為におやじが何かを残そうとしてくれている事が嬉しかった。
他人には、甘いとか、子供を一人残すなんて、とか言われるだろうけど、これが俺とおやじの親子の形だった。

そんなこんなで、俺は高校に進学すると同時に、今のこの部屋で一人暮らしをする事になった。