「許してたわけじゃない。
あんなのだって一応、お前の母親だ。
俺は家を空けることだって多いし、お前が大きくなるまでは、母親の存在は必要だって思ったんだ。
だからせめて、お前が高校を卒業するまでは目をつぶろうって決めてた。
きっとそれまでには遊びたい気持ちも落ち着くんじゃないかって期待もあった。
…でも、念のため探偵に定期的に行動を見張らせてたんだが、落ち着くどころか年を増すたびにエスカレートしてったんだ。
こんな女を母親とは呼べないよな。
調べれば調べるほど、最低な女だって分かった。
これじゃぁトモキにも可哀そうだって思い直したんだ。」

俺の為…。
おやじは俺の為に、今までずっと波風立てずにいたんだ。
俺の考えは一つしかなかった。

「いいよ、おやじ。離婚しろよ。」

「あぁ。お前には色々迷惑をかけると思うが…。」

「これ以上この生活続ける方が迷惑だよ。(笑)
っつぅか、俺受験生だよ?
大事な時期にそんな話するなんてよっぽどじゃん。」

俺はつとめて明るく言った。
そうだな、と言ってすまなそうに苦笑いするおやじをなんだか見ていられなかった。

それからすぐ、離婚が成立した。
家事放棄・育児放棄・浮気…。
離婚するには十分すぎるほどの理由があった。
当然、おやじから母親への慰謝料など払う必要もない。
親権については、おやじがほとんど家にいなかったこともあり、法律上は正直厳しかったみたいだが、母親が親権を欲しがるわけもなかった。
という事で、無事おやじの子供で居続ける事が出来た。