うちの学校は屋上は自由に解放されている。
「たまには空を見上げることも、立派な人生経験だ」
という持論を持つ校長の計らいらしい。
でも何故か、屋上に来る生徒は少ない。
多分屋上の魅力なんて、“行きたいけど行けない”ってところだけだ。
校長の生徒思いな計らいは残念ながら、屋上の魅力を減らす事に一役買っていた。
俺も凜子も別に屋上は好きじゃないけど、それは“ただの屋上”の話だ。
この学校の屋上は、俺と凜子の思い出の場所だったりする。
だから俺達はこの屋上が好きで、よく上がってくる。


屋上の扉は少し重いから、凜子達がゆっくり階段を上っている間に、俺は1段抜かしで2人を追い抜いた。
重い扉をぐっと押して、ストッパーがわりに扉のすぐ前に立つ。

「ありがとう。」

2人が目の前をすぎたのを見て、またたまきちゃんの後ろに続いた。
春の柔らかい日差しが、白い地面に反射していて思わず目を細める。

「お前らおせーよ!」

声のする方に視線をやると、あぐらをかいてこちらを睨む保がいた。
軽く手を上げ、保の可愛くない挨拶に応える。

「うるせーよヤンキー。」

保は茶色い髪をカチューシャで上げ、Yシャツの上に大きめのパーカーを羽織っている。

「たもっちゃんこそまた遅刻じゃんー。しかも髪明るくしたでしょ?」

凛子はそう言いながら軽い足取りで保の隣に座る。

「うん、似合うっしょ。」

襟足の毛をねじねじと弄びながら、人懐っこい笑顔を作る保は得意げだ。
うんうん、と凛子が保の頭をなでる。
これが他の男だったら、俺は大暴れでもしそうだけど、相手が保だから俺も穏やかに2人のやり取りを眺めていられる。