冷たいコンクリートに腰を下ろし、百合子が無言で達也を見る。

「どうしてここに?」

「さあ……どうしてなんだか、実は俺にもよく分からないんだ」

「え?」

百合子は小首を傾げた。

「……朝ホテルで起きた時は、そのまま東京に戻るつもりだったんだ」

「うん」

「けど、どういう訳か足が勝手に愛染窟に向かってた」

「愛染窟って、洞窟の?」

「ああ」

「懐かしい」

目を細め、抱えた膝に顎を埋める。