『お客さん』って──
ユリカは固まりかけた思考を無理矢理動かした。
後ろにいる『お客さん』というのは、今タカヤと入ってきた顧客以外に考えつかない。
さっき女性の視線が気になり後ろへと目を配ったときには、支店長ほか行員しかいなかったのは確かだ。
しかし──
タカヤの後ろを入ってきた顧客と、この弁当屋の女性が知り合いとは考えにくい。
顔見知りのような素振りは見せなかったように思うからだ。
それに例え知り合いだとして、『お金下さい』が続くのはおかしい。
もしかして本当に強盗──?
それならば、自分の近くへ呼べというのは、もしかして人質にとるつもりなのだろうか。
だが凶器を突きつけられているわけじゃなし、やすやすと『お客さん』も『お金』も渡したりしないとは、この女性は考えないのか?
自信がみなぎっているわけではないが、女性はユリカに正面から向き合っている。
それだけで『なにもやましいことはない』と言っているように、ユリカには感じられたし、
やっぱりこの女性と強盗は結びつかない。