少しくたびれた風ではあるけれど、真っ直ぐ前を見る瞳は仕事をしている顔そのもので、今の自分には見当たらないもの。


気がつけば、ポケットの中のカッターを握り締めていた。


そんな視線が向けられているとは露知らず、カバンの男は一番奥にある銀色をしたシャッターの方へと進む。


そしてシャッター左側には、クリーム色をしたドアの前で立ち止まった。


男がそのドアの横にあるインターフォンのボタンを押す。


マイクの入る音がしてすぐに、女性の声で誰何されたのが、後方の男にも聞こえた。


「タカヤです」


一言告げた男を待っていたのか、ほどなくして営業室側からドアが開けられる。


吸い込まれるように男が入っていった瞬間、

男を人質に押し入るか、否かの判断に迷う。


襲撃するつもりでついて来たわけではないのだが、今なら銀行内へ入ることが出来る。

それは何かからレールを敷かれているように感じ、男は鼓動を早めた。