ユリカは困惑した。
後ろを指差しているが、その指の先にあるのは金庫としか思えない。
まさか、強盗……?
そんな気持ちが湧き上がったが、即座に否定する。
こんなに身元がバレバレの状態で、強盗なんてするだろうか。
強盗に入るときくらいは覆面なりなんなりするのが、人間の心理なんじゃないだろうか。
それにもし強盗なら、両替をずっと待った意味がない。
待たなくても、客は彼女一人だったわけだし。
このタイミングでなくとも、いくらでも強盗は出来たろう。
じゃあ彼女は何をして欲しくて『お金、下さい』と繰り返しているのだろうか。
ユリカはそこで思考に詰まった。
すると女性は、何とか意思を伝えようとするかのように、変わらず後ろを指差しつつ、思案しながらゆっくりと口を開いた。
変化したのは、付け加えられた言葉と、それから、
後方をさしていた指を、女性はせわしなく動かした。
その動作はまるで──
「お客さん、こっち。お金、下さい」
──後ろにいる誰かを、女性のもとへ、呼びつけるかのようだった。