ユリカの指が端末のキーに戻る。
電話に出た女性行員にタジマ次長は何か指示をしていたようだが、それが終わったかみたかでユリカの名前を呼んだ。
またしてもキーを押せぬまま振り向いたユリカに、タジマは両替を渡した。
カルトンに乗せられた現金と、両替の伝票が合っていることを確認し、正面に座る弁当屋の女性へ声を掛ける。
女性はまたもユリカの後ろを見ていた。
呼ばれてすぐに視線をユリカに移し、ソファーから立ち上がってユリカの前に立つ。
ユリカが、現金の乗ったカルトンをカウンターに乗せて、女性の方へ差し出す。
その所作に女性はにっこりと笑ったが、少し翳りがあるようにユリカには感じられた。
いつも持参する布袋に両替された現金を詰め終えると、女性は困った様子でユリカに言った。
「あの……」
「はい」
笑顔を向けたユリカに、女性は申し訳なさそうにしながら、ちらちらとユリカの後ろへ目をやる。
ユリカが続きを促そうとした時、脇目に、後方の女性行員が時間外の通用扉を開けるのが見えた。