二人のテラーの間には、立ち上がったユリカの腰より少し高い位置までの、クリーム色した機械が置かれている。
A/C(オートキャッシャー)と呼ばれるそれは、窓口での少額な入出金や両替に使用されるものだ。
中には、日銀券が一万円券から千円券まで全種、硬貨も全種類がきっちりと詰められ、ユリカたちが使っている端末と連動している。
今月はユリカではないほうのテラーがA/Cの締め上げを行う日だった。
『締め上げお願いします』というのは、端末との連動を切るようにという意味。
ユリカの端末とA/Cの連動を切ると、ユリカが使用した今日の勘定が隣のテラーへと知らされ、勘定を数えやすくする。
これを忘れて一方だけが締め上げてしまうと、勘定は一方分で現金は両方分となり、残された端末分の計算が合わなくなってしまうのだ。
ユリカが締め上げをしようとした時、支店の電話が鳴った。
端末のキーを押下しないまま、ほぼ反射ともいうべき動作で、ユリカの手が受話器に伸びる。
しかし彼女がとる前に、後方の女性行員が電話に出た。