ユリカは受話器を口元から少し放して、伝票を、検印がチェックする箱ではなく、直接タジマへと手渡した。


「他行為替です!」


ロビーにお客様がいなければ、伝票をタジマの机に叩きつける勢いだ。


怯む様子もなく「他に他行はないか?」とのんびりな口調で、でもタジマの滑らすペンはしっかりと伝票をチェックしている。


ユリカはロビーに向き直って、受話器を耳へあてながら、ちらりとお客様の様子を窺う。


ユリカのちょっとピリピリした言動を見ていた様子はなかったが、お弁当屋の女性はタジマ次長を不安そうに見ていた。


それは、半分しか年を重ねていないユリカに言いくるめられたタジマを揶揄する視線ともまた違うように感じる。


口は勝手に改めてタカヤと言葉をいくつか交わしていて、気付けば電話を切っていた。


受話器からタカヤがまだ何か言っていたような気もするが、ユリカの意識はもうそこにはなく。


ユリカの隣に座るテラーから「締め上げお願いします」と言われ、お客の表情がひっかかりながらも、端末のキーに指をのせた。