大きく茂った木の下にマイクスタンドを立てて歌う彼。周りにいるドラムやベースの人は友達なのだろうか。みんな同じくらいの年に見えた。
「少し聴いていこっか」
「え? 嘘っ、柚葉!」
どうしてよりによってここ?
他にも何組か歌ってるじゃん。
心の中で叫びながら、どうしようもなく柚葉に着いていく。
幸い、少し人集りができていたため、遠目から見ることにした。
少し高めの特徴的なかすれた声。失恋ソングなのか切ない歌詞だった。
「……きれい」
「うん。でもなんか切ないね」
――たとえキミが他の誰かを想っていても。
歌のワンフレーズが胸に響いた。
他の誰かを想っていても、か。
そんな風に思えたらいいんだろうな。
そんなに強く誰かのことを想えたら。
風に揺れる木々を見つめながら、一年前のことを思い出した。
愛しい人が幸せに包まれた日、私は見つめることしかできなかった。一緒に喜んであげることも、想いを伝えることも、涙を流すことすらできなかった。